平行世界25日目その3にゃ~


 脳死の女の子を治して窓からお別れしたわしは1階に着地すると「にゃ~にゃ~」泣きながらリータたちを捜す。女の子を救えたからと言うよりは、感動的なシーンを見て我慢していたから涙が止まらないのだ。

 そうして病院内を走っていたら皆を発見したのでリータの胸にダイブ。テレビクルーたちはわしが2人に増えたので混乱していたが、玉藻が収納魔法の中にぬいぐるみを隠してくれたので、そこまで疑われなかったそうだ。


 わしが合流したらリータたちは脳死の女の子のことを聞こうとしたらしいが、わしの泣き顔を見て助かったと察してくれた。

 ここに長居すると、現在親子の元へ集まる人からわしが何かしたのかと勘繰られそうなので、足早にコリスたちも連れて撤退。止めてあるバスにわしたちだけ乗り込み、テレビクルーは少し外で待たせる。


「やっぱりオニヒメちゃんみたいに治ったのですね!」

「さすがシラタマ殿ニャー!」

「ゴロゴロゴロゴロ~」


 実はこの件は、2人からのお願い。三百年の眠りからオニヒメを目覚めさせたわしなら治せるのではないかと念話で頼まれたのだ。

 わしもできることなら治したかったが、この世界の者にバレると患者が殺到しそうなので隠密行動をするしかなかったのだ。

 2人からの感謝の撫で回しを受けたわしはフラフラになったけど、頑張ってテレビクルーたちを呼びに行くのであった。



 バスが走り出すと、わしは隣に座るララと念話で密談。なんとこのララは、わしの影武者を見破って、ずっと病室を盗撮してやがったのだ。


「バレないと思うほうがおかしいわよ」

「盗撮を問い詰めてるんにゃよ?」


 わしが文句を言っているのに、ララは謝罪も反省もせずに話を変えやがる。


「まぁこの動画は表に出せないわね……」

「ずっと出すなと言ってるにゃろ~。そんにゃの出したら、またわしは神様扱いされてしまうんだからにゃ~」

「あなた、自分の心配している場合じゃないわよ。トンでもないことをしでかしてるわよ」

「にゃんのこと?」


 わしのやらかし談は多いので、どれのことかサッパリわからない。


「まだわからないの? 脳死のことよ」

「別に治しちゃダメってわけじゃないにゃろ」

「だから~。死の概念が変わっちゃうって話をしているのよ」

「にゃ~??」

「まだわからないの……脳死ってのは、脳が損傷して治せないから死亡と判定されるじゃない。てことは、医学界ではその時点で、魂が死後の世界に旅立ったことになるでしょ?」

「つまり、脳死を判定された人は、実は死んでにゃいと……」

「そうよ。魂が体に残っているのに、私たちは死んだと決め付けているのよ」

「にゃんてこった……」


 確かにララの話は納得の行く話であったが、学のないわしたちでは解決策が浮かばない。

 そこでスマホで検索してみたら、脳死の場合は呼吸器等の機械を止めて、完全に心臓が止まるのを確認すると書かれていたので、生きたまま臓器移植されていないと知って胸を撫で下ろした。


「まぁ、猫の国もここの医療レベルに到達したら、脳死とかも本格的に考えて行くにゃ~」

「また先送り? 暇なんだから、あなたがいっぱい勉強したらいいじゃない」

「我が国に、脳死の患者も脳死を判定する医者もいないからにゃ~」


 そう。何もわしは積極的に先送りにしているわけではない。研究しようにも研究施設も対象もいないのでは先送りにするしかないのだ。


「……本当に??」

「お前は猫の国の医療レベルを知ってるにゃろ~」


 なのに、ララはまったく信用してくれないのであったとさ。



 ララの医療の怖い話から、わしがグータラしてるとの愚痴に変わった頃に目的地に到着。ちょっと買い物しようと、大型商業施設にお邪魔する。


「うわ~。ここはなんでも揃っているのね~」


 店内に入って少し歩くと、さっちゃんは案内板に張り付いた。


「最初に言ったにゃろ? どこでも同じレベルで物を買えるとにゃ」

「そうだけど、こんな大型の施設、さすがに多くはないんでしょう?」

「多くはないだろうげど、どこの県にも2、3個はあるんじゃないかにゃ~?」

「県って、領主が収める領地みたいのだったわね。確か50個ぐらいあるから……いっぱいあるじゃない!?」

「ちゃんと計算しろにゃ~」


 さっちゃんの相手は面倒なので、この施設の名前をスマホに打ち込んで、あとは自由に調べさせる。そしてリータたちにお金を渡し、2時間後にフードコートで待ち合わせ。ララたちが案内してくれるから、迷うこともないだろう。

 わしはというと、ベティとエミリを連れてショッピング。それもスーパーでの買い物だ。


「猫さん! コレも買ってください!!」

「もうカートはいっぱいにゃ~」


 エミリは目につく物をカートに入れるので、1台では到底足りない。


「なぬっ!? これも安いわね。買いよ!」

「お得商品ばっかりカートに入れるにゃ~」


 ベティはなんか主婦みたい。安い物を見付けては大量に持って来る。


「店長さん。カモンにゃ~~~!」

「ここに!」


 というわけで、店長を召喚して、満タンになったカートは店員に運ばせてレジも打ってもらう。

 ちなみに2人しか連れて来なかった理由は、コリスと猫兄弟が支払いの前に食べそうだから。子供たちもお菓子コーナーで駄々っ子になるのは目に見えているから連れて来なかったのだ。


「そのみたらし団子も買っておいてくれんか?」

「玉藻虫にゃ!?」


 あと、ノルンぐらい小さい玉藻の分身が肩に乗っていたから、買う物が増えるわしであったとさ。



 この3人にかまっていると欲しい物が買えないので、わしは店長と一緒に別行動。お酒とおつまみ、カップラーメン、冷凍食品等を箱買いする。明日の商売に困らない程度を売ってもらい、商品はバックヤードで受け取り。


「いや、全部はいらないと言ってるにゃろ?」

「大丈夫です! 他店からすぐに取り寄せられますし、明日の納品もありますから! あ、それも買われます??」

「この地区が食糧難になるにゃ~」


 店長は無理して根刮ぎ売り付けようとするので、「やっぱ全部キャンセル」とか脅して、程々の量を購入する。てか、コレを元にベティとエミリに商品化してもらうのだから、それまでの繋ぎがあれば充分なのだ。


 数だけ確認した商品の入った段ボール箱を山ほど次元倉庫に入れたら、レジに行って第一弾の支払い。ベティたちはまだ買い物してるらしいんだもん。

 そうして第二弾の支払いが終わって「あいつら遅いな~」と腕時計を見ていたら、ケバイ3人が戻って来た。


「「「これもお願い!」」」

「いつの間に化粧品コーナーに行ってたんにゃ~」


 数台のカートには、化粧品がてんこ盛り。どうも食料品コーナーの隣に化粧品コーナーを見付けたから、3人で「ワーキャー」言って化粧までしてもらったみたいだ。玉藻はお人形さんぐらいしかないのによくできたな……


「てか、もっといい化粧品、百貨店で買ってたんにゃけど……」

「「「キャンセルで!」」」

「お店に迷惑になるから買うにゃ~」


 わしがすでに買っていたと聞いた3人は手の平返し。でも、カートを押す店員や店長が膝から崩れ落ちたので、かわいそうだから支払いをするわしであったとさ。



 スーパーでの買い物が終わったら、日用品を購入しながら上の階へ。皆は文房具が気になるらしいので、それも爆買い。そうしてフードコートに着いたが人だかりがないので、リータたちはまだ来てないようだ。

 なので、目についたドーナツ店で大量に買って批評会。全てドーナツなのに色々な味があるから、ベティとエミリは話が弾んで楽しそうだ。

 玉藻は……何個食べる気なんじゃ。何度見ても、その小さな体のどこに入っているかわからん。


 ドーナツで暇潰ししていたら、集団が近付いて来たのでララたちと思い、わしが出迎えに向かったら、全員、先程の服から着替えていた。


「どう! 私のコーディネート!!」

「うんにゃ。みんにゃかわいいにゃ。でもにゃ~……」

「でも??」

「お前とジュマル君の服の代金はどこから出てるのかと思ってにゃ~」

「え……ダメだった??」

「やっぱ着服してたにゃ~~~」


 別にお金に困ってはいないけど、勝手にトータルコーディネートをしていては気になるってもの。


「ケチは死んでも治らなかったのね……」

「お前こそ、お金持ちに慣れすぎじゃにゃい?」


 倹約は美徳。確かララはそんなことを言っていたはずなのにお金持ちに染まっているので、別人になったと悲しくなるわしであった。



 とりあえず全員集合したので皆の服を褒めまくり、フードコートの料理を買い漁る。しばし待ち時間があるので、1階で買っていたお弁当やお惣菜を配って食べていたら、飲食店で渡された機械が一斉に鳴り出した。

 料理ができたのだと皆で手分けして取りに行ったのだが、買いすぎて機械の音が一向に鳴り止まない。ここはテレビクルーに頼んで、料理の配膳は任せる。あとで魔法を見せる確約は取られたけど……


 テレビクルーのおかげでゆっくり食べられるようになったので、皆が嬉しそうに料理を頬張る姿を微笑ましくわしが見ていたら、隣に座るエミリが不思議そうに声を掛けた。


「猫さん。どうかしました?」

「いや~……昔、こんにゃ夢を見たのを思い出してにゃ。正夢になったと思っていたんにゃ」

「夢、ですか……」

「ほら? お母さんの遺骨を見付けた時に、日本の食べ物の話をしたにゃろ? その日に、みんにゃがフードコートで食事をしている夢を見たんにゃ~」

「あっ! そういえば、猫さんから聞いた話が現実になっていました! なんで私は忘れてたんだろう……」

「大人になったからにゃ。あの時エミリは10歳ぐらいだったし、覚えることが多すぎたから忘れてしまったんにゃ。それに、お母さんも帰って来たしにゃ」

「それなら猫さんも3歳だったじゃないですか~」


 わしが諭すように言ったらエミリは頬を膨らませる。そんなエミリと昔話をしていたら、ベティがやって来た。


「なに楽しそうに話をしてるの?」

「ベティの遺書の話をにゃ」

「遺書? あたし、なに書いてたっけ??」

「ほらにゃ? 子供ってのは、幼い頃のことは忘れてしまうもんなんにゃ」

「本当ですね。あはははは」

「なに笑っているのよ~」

「にゃはははは」


 エミリが笑うとわしもつられて笑う。ベティもエミリが楽しそうにしているからか笑い出し、馬鹿にされたことを忘れていた。

 わしは「最愛の娘に宛てた遺書の内容ぐらい覚えておけよ」と思ったが、口には出さないのであったとさ。

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