平行世界25日目その2にゃ~
平行世界25日目は大学病院に視察に来たものの、いきなり猫ドック……いや、人間ドックに放り込まれたのでごねまくったのだが、リータたちは何が問題かわかっていないので、とりあえずやってみたいとなった。
まずはレントゲン。胸の辺りを写真に撮って、皆が終わったら全員分見せてもらった。ちなみに猫兄弟は身長が足りないとか断られていたけど、普通の猫だからいらないのだと思う。
「「「「「にゃんだこりゃ~~~!!」」」」」
全員女性だというのに、初レントゲン写真を見た皆は大声を出してはしたない。まぁ自分の骨が綺麗に映っているのだから、普通に驚くか。
ノルンは真っ黒。ゴーレムなんだから、映るわけがなかろう。
「わしのは……ちょっと猫背かにゃ?」
「ブッ! あなたのそれは、猫の背骨だから! アハハハハハ」
リータたちは忙しそうなのでララに振ったら、死ぬほど大笑い。別に笑わそうとなんてしてないのに……
一通り驚いたり笑ったりしたら、次の催し。
「え……血を採るの??」
しかし採血だったので、さっちゃんたちのテンションは大幅ダウン。注射も怖いみたいだ。
「ちょっとシラタマちゃんからやってみて」
「わしも注射苦手なんにゃ~」
ジジイの時に死ぬほど刺された物は慣れたものと言いたいところだが、10年以上ブッ刺されまくった物なんて見たくもない。だが、全員に弱虫とか言われたからには、覚悟を決めて看護婦さんに右腕を差し出した。
「痛かったら言ってくだちゃいね~?」
「まず、その赤ちゃん言葉をやめてくんにゃい?」
「ん? あれ??」
「にゃ~??」
看護婦は痛みを和らげようと喋りながらわしに注射を刺そうとしたようだが、何度やっても刺さらない。しまいには振りかぶって刺すもんだから、針も折れちゃった。
「そういえばわしって……超頑丈だったにゃ~。にゃははは」
注射なんか恐るるに足らず。わしの皮膚に傷ひとつ付けられないのだから、怖がる必要もなかった。リータたちも一緒。大人組のほとんど注射は刺さらない。
「さあ。さっちゃんの番にゃよ~?」
「い~~や~~~!!」
なのでさっちゃんを実験動物に使おうとしたら、めちゃくちゃ暴れるのであったとさ。
さっちゃんが注射を怖がってやってくれないのでは、子供たちにさせるわけにはいかない。そこで思い出したのだが、元々わしは人間ドックなんて断っていたので、この流れに乗って正式に人間ドックはやめた。
引き止める広報とテレビクルーには「しらんがな」と塩対応。元の服に着替えてズカズカと病院内を練り歩く。
「猫王様の回診にゃ~」
白衣を借りてこんなことを言いつつ院長回診の真似事をしていたら、玉藻が調子に乗るなと言って来た。
「なにが回診じゃ。こんなに引き連れて歩くなんて、徳川の真似事じゃろうが」
「これ、マジで院長はやってるんにゃ。テレビで有名なんにゃよ?」
「なんのためにじゃ?」
「権威を振り撒くためにゃ~」
「嘘つくでない」
玉藻はわしを嘘つき扱いするので、広報の女性に聞いてみたら、たまに院長みずから回診して若い医者に勉強させていると答えていた。
「「誠にゃ??」」
「誠です! 誠ですから!!」
広報が逆ギレしているところを見ると、嘘っぽい。玉藻もわしの答えが正解だと受け止めていた。
病院内をウロウロするだけでは視察にならないので、小児科病棟に行って、オモチャのプレゼント……と言いたいところだが、わしがオモチャにされた。それで笑顔になったから、結果オーライだ。
ただ、わしの子供にもモフリ被害が行きそうだったので、わしそっくりのぬいぐるみをプレゼント。人数分ないので、足りない子供にはリータが土魔法で作った猫又人形だ。
「もっと作って~」とリータに群がる子供たちを、少し離れたところでわしが微笑ましく見ていたら、メイバイが寄って来た。
「ここの子供って、みんな怪我してるニャー。治してあげないニャー?」
「治してあげたいんだけどにゃ~……医者は治療してお金を貰ってるんにゃから、一瞬で治したら利益がなくなるんだよにゃ~」
「あ……ここの人の仕事を奪うことになるんニャ……でもニャー。痛そうにしてるのはかわいそうニャー」
「そうにゃけど、1人治してしまうとみんにゃ来てしまうにゃろ。その中にはわしでも治せない子供もいるにゃろうから、期待を抱かせてもっと悲しませてしまうかもしれないにゃ」
「シラタマ殿でも治せないことあるんニャー!」
「いっぱいあるにゃ~」
メイバイが大声を出すと玉藻たちも集まって来たので、わしでも知ってる病気の説明。ガンや白血病、ウイルス性の病気、その他にも、この医療が発達した世界ですら治せない病気は多々あると説明してあげた。
皆はそれほど病気の種類があるのかと驚いていたので、メイバイもわしに治せと言わなくなった。
小児科の視察はほどほどにして、広報の女性には、治療が難しい患者を見たいとお願い。子供には酷なので、空き部屋を借りておやつとタブレット等を渡す。
コリスとオニヒメと猫兄弟が残っているから、危険なことは起きないと信じる。ベティとエミリもいちおうこっちを見ようよ~。
お遊びはここまでにして、管に繋がれている患者や髪の毛が抜けた患者、手足を失った患者を遠巻きに見て医者から話を聞いたり、直に苦労話を聞いてわしたちの世界に活かす。
お昼休憩を挟み、手術も見せてもらったら、さすがに目を逸らす人もいた。わしと玉藻とさっちゃんは背負っている物が違うから、どんな患者であろうと一切目を逸らさずに勉強を続けた。
頼んでいた教科書や論文も大量に買い取ってウロウロしていたら、ベッドで寝ている幼い女の子の前に憔悴しきった母親がいたので話を聞いたところ、脳死判定が出ているのに一ヶ月近くも母親は女の子の傍から離れていないらしい。
その光景に、リータとメイバイは何か言いたげな目を向けるので、わしは念話を使って話を聞き、その病室をあとにしたのであった。
「ちょっと診させてもらっていいかにゃ?」
実はわしだけ病室に残っていたので、ノックをしたり咳払いをして母親に気付いてもらおうとしたが、まったく顔を上げないのでわしは声を出した。
「猫が喋ってる……」
ようやく母親はこちらを見てくれたので、わしは笑顔を向ける。
「いま話題の猫にゃ~。噂ぐらいは聞いたことがあるにゃろ?」
「はい……時々娘に話をしていました……猫さんが喋っているんだよ~って……うっうぅ」
「にゃはは。それは喜んで聞いてくれていたんだろうにゃ~。頭を撫でてあげたいんにゃいけど、いいかにゃ?」
「ううぅぅ……」
母親は涙を
「例えば……例えばにゃよ。魔法があったら娘が治るとか考えたことはないかにゃ?」
「うぅ……何度も……神様にも何度も娘を助けてくれと……うぅぅ」
「だよにゃ~。愛する娘だもんにゃ~。じゃあ、神頼みじゃにゃくて、猫頼みに変えにゃい?」
「え……」
「わしが魔法を使えるのは知ってるにゃろ? 正直、まったく自信はないけど、やるだけはやってみようと思うにゃ」
わしの話に希望を持った母親は、イスから転げ落ちてわしの足元まで這って来た。
「娘を……娘を助けてください。お願いします。お願いします……」
土下座で懇願する母親の前に、わしはじゃがみ込む。
「言っておくけど、これは実験にゃ。治るかどうかはわしもわからないにゃ。目が開いたとしても記憶はないかもしれないし、まったくの別人に変わっているもしれないにゃ。最悪、わしの魔法が原因で死期を早めるかもしれないにゃ。それでもやるにゃ??」
わしが脅すように説明すると、母親は顔を上げて10秒ほど固まっていた。その10秒、わしには短い時間であったが、母親には長い長い自問自答。おそらく、1時間にも感じたはずだ。
「そ、それで……かまいません……」
「本当にいいんだにゃ?」
「はい……助かる可能性が1%でも……記憶がなくとも……もう一度娘が目を開けてくれるだけでいいんです! お願いします!!」
「よし! お母さんは祈っていてくれにゃ~」
母親から魂からの許可をもらうと、わしはベッドに上がって娘の頭の近くに腰を下ろす。そして、脳内の壊れた毛細血管や壊死した細胞を正確に治すイメージを持って、大量の魔力を注ぎ込んだ回復魔法を使うのであった。
わしの回復魔法のせいで強烈な光に包まれた病室は、しだいに光は収まった……
「ん、んん~……」
その数10秒後、女の子の声が聞こえると、母親の目から涙がこぼれ落ちた。
「
「んん、んん」
「心愛~~~!!」
娘は人工呼吸器に繋がったままなので言葉が話せないが、母親は娘に記憶があると確信して抱きついた。なので、感動的なシーンを邪魔しないように、わしはしばらく動かない。
母親が泣き叫ぶなか、娘の視線が上に来てわしと目が合ってしまった。わしは慌てて念話を繋いで会話する。
「なんかこえがする……ねこさんのこえ?」
「うんにゃ。猫さんにゃ~」
「ねこさんがしゃべってる~」
「ママから聞いてるにゃろ? UFOから猫さんが降りて来たってにゃ」
「うん! ママとまいにちいっぱいおはなししたんだ~」
「にゃはは。いいお母さんだにゃ~」
「うん! ママ、だ~いすき」
経過観察でもう少し娘と喋っていたかったが、外が騒がしくなって来たからそろそろわしはお暇する。
「猫さんは忙しいからもう行かなくちゃならないんにゃ。ごめんにゃ~」
「……またあえる?」
「それは難しいにゃ~。猫さんは君のママみたいに泣いてる人を笑顔にしなくちゃいけないから忙しいんにゃ。君にゃらママを笑顔にできるから、ここは任せていいかにゃ?」
「うん! まかせて!!」
娘からいい返事をもらうと、わしは開いている窓に近付く。
「それじゃあ、わしと会ったことは秘密にしてくれにゃ。バイバイにゃ~ん」
「バイバイにゃ~ん」
「ありがとうござ……」
母親の感謝の言葉は最後まで聞けなかったが、娘とは笑顔で別れを済まし、わしは窓から飛び下りるのであった。
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