平行世界16日目その5にゃ~


 野球対決は、いちおうどちらも打ち取ってはいるのだが、審議に突入。その前に、またララにボールの弁償代を取られました。

 しかしジュマルは大リーグボール2を見て両手を地面につけてうなだれていたので、自分の負けだと認めたのだろう。


「ちょっとは楽しめたかにゃ?」


 そこに近付きわしが声を掛けると、ジュマルはゆっくりとこちらを見た。


「……楽しむ??」

「ジュマル君はスポーツで敵無しなんにゃろ? ララちゃんから、その鼻っ柱を折ってくれと頼まれたんにゃ」

「なんで……」

「さあにゃ~? 敵がいないからスポーツを辞めたと思ったのかもにゃ。ララちゃんに辞めた理由、説明してないにゃろ?」

「別に言う必要ないから……」


 ジュマルが目を逸らすので、わしはそっちに移動してドスンと座った。


「わしでよかったら、相談に乗るにゃよ? すぐ別の世界に帰るんにゃから、秘密は守られるにゃ~」

「……絶対にララに言うなよ」


 数秒黙っていたジュマルはあぐらに座り直し、スポーツを辞めた理由を語るのであった。


 ジュマルがスポーツを始めたのは中学から。その運動神経から入部してくれと嘆願が多く、みっつの部活を掛け持ちしたらしい。

 だが、楽しかったのは2年生まで。先輩が進学で去り、同級生も実力不足や家庭の事情、受験勉強でどんどん去って行くから寂しくなったそうだ。

 高校に入ってからはまた仲間が増えて喜んでいたのだが、2年生にもなると中学校より多くの仲間が去って行ったので、このままスポーツを続けると同じ悲しみが続くと思って辞めてしまったらしい……


「にゃるほどにゃ~……」


 ジュマルの話を黙って聞いていたわしは、全てを理解した。このジュマル、転生の際には仲間を守れる強い体がほしいと言っていたのだから、前世はかなりの仲間想いで間違いない。

 その仲間を守り切れずに死んだことが尾を引いているのだから、様々な理由で仲間が去る姿が耐えられなかったのであろう。


「それは辛かったにゃ」

「まぁ……」

「でも、仲間が去り際に、にゃにかをたくして行かなかったにゃ?」

「にゃにか??」

「バトンにゃ」


 ジュマルの頭にはリレーで使われる棒が浮かんでいる。


「みんにゃだって、できれば続けたかったと思うにゃ。だって、好きで初めて辛い練習も頑張っていたんだからにゃ。でも、プロまで続けられるのは、極一部の者だけにゃ。だから、その夢をジュマル君に託したんじゃないかにゃ~?」

「いや……」

「みんにゃが辞める時、どんな顔をしてたにゃ? にゃんか言ってなかったにゃ? 思い出してみろにゃ」


 わしの言葉に、ジュマルは下を向いて考える。


「吹っ切れたような顔で、プロ入り楽しみにしてるとか……」

「ほらにゃ? バトンを託されていたにゃ」

「だからって、俺はどうしたら……」

「それはジュマル君の自由にゃ。ただにゃ。バトンを託された人ってのは、託した人の希望にゃ。その人が辛い時、託された人が頑張っている姿を見るだけで勇気付けられるんにゃ。言ってる意味、わかるかにゃ?」

「まぁ……なんとなく……」


 頭が悪いなりにジュマルはわかってくれたので、わしは立ち上がる。


「あとにゃ。ひとつ間違ってることがあるにゃよ?」

「間違ってる??」

「仲間はジュマル君の元を去ったんじゃないにゃ。ジュマル君の後ろに回って背中を押す役に変わっただけにゃ~」

「言ってる意味が……」


 わしはジュマルにわかりやすいように両手を広げる。


「ここに集まっている多くの生徒を見ろにゃ。この生徒は、みんにゃジュマル君の応援していたにゃ。その声に励まされたにゃろ? いつもより力が出なかったにゃ? それこそ応援の力……みんにゃはジュマル君のサポーターにゃ~~~!!」


 わしが大声を出すと、ララがタイミングよく叫ぶ。


「お兄ちゃん! おかえり~~~!!」

「「「「「おかえり~~~!!」」」」」

「「「「「わああああ」」」」」


 その声に呼応して、嬉しそうな生徒の声。


「にゃはは。こんにゃに仲間がいて、ジュマル君は幸せ者だにゃ~。にゃははは」

「うっ……ううぅぅ……うおおぉぉ~!!」


 わしが笑いながら説明すると、ジュマルは仲間がいると確信して、男泣きするのであった……



 ララが司会し、グズグズ泣くジュマルからプロ転向の話をさせているのをベンチに座って聞くわし。

 平行世界人で猫のわしがこんな所でお弁当をモグモグしているのに寄って来ないとは、ジュマルのスポーツ界復帰は、この学校の待ち望んでいたニュースなのかもしれない。


「それって凄いお肉のごはん? 私にもちょうだい」


 このまま帰ってしまってもいいかとお弁当を食べながらわしが考えていたら、ララがやって来た。


「第一声は、感謝じゃないかにゃ~?」

「あ、そうだった。アハハハハ。あり、アハハハハ」

「もういいにゃ~」


 ララは感謝の言葉も言えないくらい笑っているので、わしは諦めて超高級肉のフレンチお弁当を振る舞う。


「わ~。見た目もえる~」

「写真撮ってにゃいで食べろにゃ~」

「りょっ」

「元女房がJKに毒されてるにゃ……オヨヨヨヨ」


 かわいこぶりっこがいたたまれないので嫌みと嘘泣きをしてみたが、ララは無視。「うまいうまい」とぶりっこをやめてがっついて食べ出した。

 わしもランチの途中だったので、モリモリ食べて食後のコーヒーを2人で飲む。


「この味……懐かしい……」

「まだまだこっちの豆には劣るけど、にゃんとか鉄之丈スペシャルブレンドに近付けたにゃ~」


 このままコーヒー談義に花を咲かせそうになったが、ようやくララから感謝の言葉がやって来た。


「ありがとうね」

「にゃ?」

「お兄ちゃんのことよ。やっぱりあなたを頼って正解だったわ」

「ああ。別にたいしたことしてないにゃ。それよりも、よくあのタイミングで入って来れたにゃ~」

「何年あなたの妻をして来たと思っているのよ。ラストは必ず手を広げてカッコつけるんだから、チョロイチョロイ」

「わし、そんにゃことしてたにゃ?」


 元女房に掛かれば、わしのクセなんてお手の物。他にも変なクセはないかと聞き出していたけど、ぜんぜん教えてくれない。なんなら時間を盾に急かされて、わしはララを背負って高校をあとにするしかなかった。



 ピョンピョンと屋根を飛び交い、2人で思い出話をしながら訪れた場所は、わしが作った会社。ただ、入ってしまうといらぬことを言ってしまいそうなので、遠くから見守るだけ。

 一周ほど工場を遠巻きに見て、知人の顔や孫の顔が見れたら次に移動。


「お墓に行くんじゃなかったの?」

「わしの好物にゃんだから、ちょっと待ってくれにゃ~」


 行き付けの和菓子屋さんにやって来た。店主のたっつあんがまだ店に出ていたから懐かしくって涙が出そうになったが、なんとか我慢して好物の大福を全部買い。

 ひとつはいますぐ食べて、残りは全て次元倉庫に保管。記念日に食べる予定だから、当分困ることはないだろう。

 ララも食べたいと横取りしようとしたけど、他の和菓子を買ってやるから我慢してくれ。いつでも買えるじゃろ。


 今まで見たことないぐらい驚くたっつあんに別れを告げ、ブーブー言うララを背負って移動したらお墓に到着。

 猫とJKのペアでは目立つだろうと思っていたが、お墓には2組ぐらいしか人はいないし、わしたちのお墓とは離れていたのでゆっくりとできそうだ。


「お花もいっぱいあるし、掃除の必要もなさそうだにゃ~」


 先祖代々の墓は、昔はわしたちぐらいしか手入れしていなかったのに花に囲まれているので息子が来たのかと聞いたら、ララは首を横に振った。


「あなたが死んでから、訪ねて来る人がいっぱい居たのよ。もう、私の夫は総理大臣だったのかと思ったほどよ」


 どうやらわしが少し手助けした人が感謝の言葉を送りに、毎日3組、多い時は10組以上も来ていたそうだ。

 最初は丁寧に対応していたらしいが途中から面倒になって、お墓の地図を書いた張り紙をしたら、全員そちらに向かってくれたらしい……


「にゃんか雑じゃにゃい?」

「だって、夫が褒められまくるの恥ずかしいじゃない。子供も孫も、黒歴史を聞かされてるとか言ってたわよ」

「確かに恥ずかしいにゃ~」


 言われてみたら、わしの自慢話みたいなことを勝手に言い振らされているのだから黒歴史と変わりない。いまさら恥ずかしくなったので、違う話で逸らしたい。


「てか、にゃんでお前の先祖のお墓までお花まみれにゃの?」


 ララの先祖代々のお墓は、遠い田舎にあったし過疎化が進んで親戚も都会に出てしまったので、墓じまいしてうちの隣に引っ越したのだが、綺麗にお花が飾られているのは気になっていたのだ。


「そ、それは……わからないわ」

「いまの間は、わかってる間にゃろ~」


 後日アマテラスのお願いの褒美で聞いてみたところ、わしと一緒に奉仕活動をしていることが多かったので、その感謝でララのご先祖様にも同じことをしてたんだって。

 てか、ララも輪廻転生してから見に来て不思議に思っていたら、見たことのある人が掃除していたからわしの二の舞いになっていたと気付いたので、恥ずかしかったっぽい。


 ララも顔が赤くなったところで、お墓参り。ご先祖様に「戻って来ちゃった。てへ」っと報告して、わしたちは立ち去るのであった。



「さってと。そろそろみんにゃと合流するにゃ~」


 わしは清々しい気分で背伸びすると、ララから待ったが掛かる。


「晩ごはん食べて行くんじゃなかったの?」

「お前の料理は味わいたいんだけどにゃ~……帰る時、後ろ髪引かれそうだからやめとくにゃ」

「そう……あなたはもう、違う世界の猫だったわね……」

「まぁどうしてもわしが忘れられないにゃら、アマテラスに言って会いに来てくれにゃ」

「プッ……忘れられないのはあなたのほうでしょ。お嫁さんほっぽり出して、1人で会いに来てるぐらいだし」

「来にゃかったら来にゃかったで、夜な夜な夢枕に立つにゃろ~」


 そう。わしがララに会ったのは、愚痴を未然に防ぐため。でも、ララはわしの愛が深すぎるとおちょくるので聞いてらんない。


「あ、そうにゃ。ジュマル君が人気にゃのはわかるんにゃけど、にゃんでお前まで大人気にゃの?」

「それは~……読モってわかる? ファッション誌の素人モデルのことなんだけど」

「にゃんと!? モデルさんしてるんにゃ~」

「そのモデルじゃないわよ。素人って言ってるでしょ」


 ジジイでは、読モもスーパーモデルも違いがわからないので、ララは先を進める。


「こんなに美人に生まれたから、将来は女優になろうかと悩んでいるのよ。読モはその足掛かりね。ま、大学卒業までは、青春を楽しもうと思っているけどね~」

「へ~。もう将来を考えてるんにゃ~」

「私もあなたに負けてられないからね。今世は好きなように生きて、楽しみ尽くしてやるわ」

「それだとわしが、にゃにもやらせないダメ夫みたいに聞こえるにゃろ~」

「あら? いい夫だと思っていたのかしら??」

「そ、それは……ごめんにゃさい」

「アハハハハ」


 確かにわしに付き合わせて苦労掛けたのは事実なので謝ったら、ララは大笑い。その笑いは一向に止まらないので、わしが思う以上に苦労を掛けていたのかもしれない。


「す、すまなかったにゃ……」

「アハハハハ。いえ、大変なことはあったけど、それを含めて楽しかったわよ。アハハハハ」

「だったらにゃんで笑うんにゃ~」

「アハ。だって、王様になってもぜんぜん変わらないんだも~ん。アハハハハ」

「お前もぜんぜん変わってないにゃ~。にゃはははは」


 わしが謝って女房が笑う。これがわしたち夫婦の日常。昔を思い出し、笑いながら涙を浮かべるわしとララであった……



 それからララとちょっと喋って別れを告げたら、わしは行きと同じくダッシュで京都に向かう。そしてベティにスマホで連絡を取って、本日の旅館に入ったら、従業員のサイン攻め。

 反応から察するに、皆がこのホテルにいるのは間違いない。とりあえずサインは面倒なので写真と握手で許してもらい、皆が休んでいる部屋に入ったら、リータとメイバイが無言で詰め寄った。


「にゃ、にゃんですか??」

「この美人さんは誰ですか~~~?」

「私たちに内緒で出掛けて楽しそうだニャーーー?」

「にゃにこれ!?」


 リータが見せて来たスマホの中には決定的証拠。ララは数十万人の登録数を保持する動画配信もやっていたらしく、わしとジュマルが対決した今日の動画もバズっていたのだ。


「すいにゃせん!!」


 というわけで、本日二度目の謝罪は土下座。前世も今世も妻の尻に敷かれまくっているわしであったとさ。

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