平行世界16日目その4にゃ~
ジュマルとのサッカー対決はわしの完勝と言いたいところだが、ゴールネットを破いてボールも破裂させてしまったので、ララから弁償代を取られたから負けた気分になってしまった。
「それじゃあ次に移動しましょう」
「まだやるにゃ~? もう弁償したくないにゃ~」
「お兄ちゃんも負けたままじゃ引き下がれないよね?」
「お、おう! てか、あのまま続けてたら俺が勝ってたんやからな!!」
「わしが3点先取したんにゃから、覆るわけがないにゃろ~」
わしがやりたくなくても、ララがジュマルに振ったらやる気満々。でも、まさか計算もできないバカだったとは……
ララに首根っこを掴まれてやって来た場所は、体育館。バスケットボール部員に囲まれてしまったが、ララがキャピキャピ言ったら踊りながらコートから出て行った。
「だから、その猫被りはなんにゃの?」
「じゃあ、三回戦は、ワンオンニャー対決よ~!」
「いや、ワンオンワンじゃにゃい? 『ニャー』ってわしのことにゃ? いやいや、ニャーオンニャーじゃにゃい??」
「ブッ……中央のサークルに行きなさい!!」
ララがぜんぜん説明してくれないからツッコミまくって笑わせようとしたけど、耐えられてしまった。仕方がないからジュマルの元へ向かおうとしたが、そもそもなことがあった。
「わし、バスケットにゃんかしたことないんにゃけど~?」
「それだけ運動神経よかったら、なんとかなるでしょ?」
「う~ん……バスケットボールが床にめり込みまくる未来しか浮かばないにゃ~」
「なし! ワンオンワン対決はなしで! みんな~。集まって~」
ララに群がる生徒にわしは押し退けられ、ルールが決まったらまたわしは押し退けられたけど、こいつらはわしに興味ないのかな?
「ダンク対決をやります!」
そんなことを考えていたらルール説明が始まったので耳を傾ける。いちおう初心者のわしはドリブルはしなくてよくなったけど、芸術点が勝敗の決め手になるらしいので、わしは心配だ。
「わし、芸術にも
「そんなの知ってるわよ。ハンデでお兄ちゃんからやらせるから、それよりハデなことをしてくれたらいいだけ。簡単でしょ?」
「まぁそれにゃら……」
わしが納得したら、ダンク対決のスタート。ジュマルの身長は170センチ前半しかないように見えるけど、あの身体能力ならダンクは楽勝かとわしが思っていたら、それより凄いことをやってのける。
ジュマルはダムダムとドリブルをつき、勢いを付けてゴール下に入るとジャンプ。空中で横に3回転半してから、ゴールにボールをバックハンドで叩き付けたのだ。
「「「「「キャーーー!!」」」」」
『おおっと。ジュマル君はいきなりの大技。トリプルアクセルだ~~~!』
「お前は誰にゃ?」
そのダンクに女子から黄色い声援があがり、メガネの男子がわしの隣で実況しているので、芸術点は高そうだ。
かといって、急遽始まったダンク対決なので、得点表もない。わしがダンクをしてから拍手の数で決まるらしいので、「てへ」って顔のメガネ君への追及はやめて、トコトコとスリーポイントライン辺りまで近付いた。
そこからトコトコと歩いてゴールの近くで止まると、何度も上を見たり下を見たりと距離を確認してからジャンプ。わしは縦回転を17回してから、そっとボールをゴールの枠に入れてぶら下がるのであった。
「「「「「なんじゃそりゃ~~~!!」」」」」
『人智を超えたスーパープレイ! 名付けるなら、キャットトルネードだ~~~!!』
あまりにもバスケットから掛け離れたダンクをしてしまったので観客にツッコまれてしまったが、メガネ君が締めてくれたので、採点が始まるのであったとさ。
「一本目の勝者は~……僅差でシラタマ!」
「「「「「わああああ」」」」」
「「「「「ブーブー!」」」」」
ララの司会で勝敗がついたのだが、わりと接戦だったのでブーイングも聞こえている。わしもあんなのでよく勝てたなと思っているのだから、ブーイングはやめてほしい。
「さあ、お兄ちゃん。このままじゃまた負けちゃうよ?」
「誰が負けるねん! 俺の華麗なダンクを見さらせ~~~!!」
ララに挑発されたジュマルは、いきなりダッシュ。それも、反対のゴールに向かった。わしが何をしているのかと思ったら、そこからまたダッシュ。ドリブルをしているのに、おそらく100メートル走の世界記録より速度が出ているだろう。
ジュマルはそのスピードでスリーポイントラインから踏み切り。あのバスケットの神様でさえフリースローラインからの踏み切りなのに、楽々とボールを叩き付けたジュマルであった。
「「「「「……キャーーー!!」」」」」
『いま何歩あるいた!? 神様超えのレーンアップが炸裂! 前代未聞のスリーポイントダンクだ~~~!!』
一瞬の沈黙の後、観客の歓声が文字通り破裂。メガネ君もノドの血管が切れそうだ。
そんな大歓声のなか、わしはトコトコと反対のゴール下に移動して待機。皆が落ち着いてララの「ゴー!!」の合図で、わしは縦にピョンピョン飛び跳ねた。
『さあ、今度は何をしでかすのでしょうか? ちなみにトラベリングになってますが、見逃すルールになってますからね~?』
メガネ君が失笑を取っていると、その笑い声は驚きの声に変わった。
『え? シラタマ王は、着地なしで飛んでいます!!』
そう。わしが空気を踏んでピョンピョンしてるからだ。その驚く声を受けて、わしはマジもんのエアウォーク。空気を蹴ってジグザグにコートを駆け抜ける。
ラストは、リングの中央辺りから天井ギリギリまで垂直ジャンプ。そしてボールを頭の上に持ったまま、足からリングを通り抜けるわしであった……
「審議!!」
さすがにやりすぎてダンクにまったく見えなかったので、ララは審査員かどうかわからない生徒たちを集めて会議。かなり揉めているのでジュマルを見てみたら、崩れ落ちていたから結果は火を見るより明らかだろう。
「ダンク対決はドロー! 引き分けよ!!」
なのに、ララの裁定はドロー。わしの反則があったらしい……
「もうジュマル君は戦意喪失してるんにゃから、終わらせてやれにゃ~」
「まだよ! お兄ちゃんは負けないんだから! お兄ちゃん……立って~~~!!」
「にゃに演技してるにゃ?」
倒せと言ったのはララなのに、わしは悪者扱い。涙まで流してジュマルを励ましている。周りからもジュマルコールとララコールがあがり、ついにジュマルは立ち上がった。でも、ララコールはいらなくね?
「ララ……次こそ、お兄ちゃんがあの猫を倒してやるからな? 任せておけ~~~!!」
「お兄ちゃ~~~ん」
「だからにゃにこの寸劇??」
2人が抱き合うと辺りは温かい拍手に包まれたので、わしのツッコミは掻き消されるのであったとさ。
場所は変わって野球場に移動。これまで時間を掛けたのだから、ネット裏には「猫が来てるぞ~!」と近所の人も集まって来て満員だ。
「では、ルール説明しますよ~?」
そんな大観衆なのに、ララはまったく物怖じしないでキャピキャピルール説明。
今回はピッチャーとバッターを交互にやって、一打席勝負をすればいいらしい。
「弁償したくにゃいから、バットは魔法で作っていいにゃ?」
「まぁ……いいでしょう! 作ってるところは撮らせてもらうわよ?」
「不正にゃんかしないにゃ~」
ララは不正の証拠を残そうとしているのだと思っていたが、ちょっと違う。
「そこはハートにしたほうがかわいくない?」
「ただのバットにゃ~」
JKに染まっているっぽい。デコレーション盛り盛りのバットを土魔法で作らされたし……てか、表面が凸凹になったから、デコバットはララにあげて新しいバットを作るわしであった。
「三球三振で打ち取ってやる!」
野球対決の投手は、まずはジュマル。すんごい剣幕で宣言しているけど、失敗に終わる可能性が高いのによく言えるな。
それから審判役の生徒がプレイボールを宣言したら、ジュマルは左足を高々と上げて、大きなモーションのピッチング。
おそらく160キロは出ているだろうが、相手はわしだ。ちょうど目の前に来たところで、とんでもないバットスピードのハーフスイング。
狙い通り、ボールはライトスタンドのファールゾーンに飛んで行ったのであった。
「フッ……ファールチップするのがやっとか」
「にゃに勝ち誇ってるんにゃ。三球三振するんじゃなかったにゃ?」
「ファール1個だから、あと2球で打ち取ればええだけや!」
「計算は合ってるんだけどにゃ~」
普通、三球三振と言えば見送りか空振りだと思うけど、ジュマルを相手にするのも面倒なので、次の投球待ち。そのボールを今度はレフトスタンドのファールゾーンに運び、最後の投球だ。
「死ね~~~!!」
最後のボールは、今までよりさらに速い。170キロを超えていそうだ。
「しにゃった!?」
センタースタンドに打ち込んでやろうと思っていたボールは、思いのほか速くてわしは力加減を失敗してしまい、場外に消えるどころかこの世界から消えてしまうのであった……
ボールが消えてしまってはヒットかファールか判断できないらしく、審議の末、一旦保留。弁償代はきっちり取られて、わしはピッチャーマウンドに登った。
「あ~。キャチャーも審判もどいてくんにゃい? 死んでも知らないにゃよ??」
ジュマルが豪速球を投げる度にビビっていた者を置いておくと危険なので、ちょっと脅したらそそくさとどいてくれたから、わしの投球の開始。
いちおうキャッチャーがいる
「ちょっと速すぎたかにゃ~?」
「様子を見ただけや!」
ジュマルは見送り。たぶん200キロぐらい出ていたから手が出なかったのだろう。
「同じ速度で投げるからにゃ~?」
「こいや~~~!」
わざと見送ったと言っているジュマルを信じてポイッと投げたら空振り。しかし、わしの目に狂いがないのなら、ジュマルはボール1個分下を振っていた。
また同じ速度で投げたらファールチップしたから、200キロの速度について来れているのは間違いなさそうだ。
「にゃはは。粘るにゃ~」
「はは。この程度、すぐ慣れてやんよ!」
「じゃあ、次でホームランでも打ってくれにゃ~」
「どっせ~い!!」
わしのポイッて投げたボールに、ジュマルは気合いのジャストミート。思いっきり振り切り、目線はライトスタンドへ……
「よっと。ファーストに投げたらいいのかにゃ?」
いや、ジュマルの思い違い。わしの投げたボールが重すぎたせいで金属バットは曲がったので、ただのピッチャーゴロにしかなっていない。
「まぁいいにゃ。満塁の
ラストの投球は、ちょっと力を込めて……
「だ、大リーグボール2……」
わしの投げたボールは手から離れた瞬間から空気の壁にぶつかり、何度となく破裂音を響かせていたが、ホームベースに到達することもなく完全に消滅したのであった。
でも、よくその年齢で大リーグボール2なんて知ってたな……
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