平行世界11日目その2~13日目その1にゃ~


 玉藻とイサベレと喋っていたら、高校生はわしの剣も見たいと言い出した。わしがイロイロ説明したりしていたから、皆より強い剣士だと思われたようだ。

 面倒だから「弱い」と言ったのだが、リータたちが「やれやれ」うるさいので、顧問の先生と戦うことになってしまった。てか、生徒を押し退けて「やったるで~!」と鼻息荒いんじゃもん。


「じゃ、適当に打ち込んでにゃ~」


 なので、デモンストレーション。わしは竹刀も持たずに畳の中央で座禅を組み、目を閉じた。


「いざ、参る!」


 そんなナメきった姿勢でも、先生はノリノリ。ゆっくりと回り、わしの後ろから竹刀を振った。


「ぎゃっ!? 手が、手が~~~!!」


 その結果、先生の両腕は宙を舞い、血を撒き散らす……


「ちゃんと見るにゃ。手は付いてるにゃろ? 落ち着いて深呼吸にゃ~」

「ゼーゼーゼーゼー」


 と、先生は錯覚しただけ。わしだって何もこの10年遊んでいたわけではない。師匠である宮本武史の使っていた、リアルな斬撃を錯覚させる殺気の剣をマスターしていたのだ。

 だから、わしは振り向きも立ってもいないのに、先生は両腕を斬り落とされたと錯覚してしまったのだ。


「シラタマさん! 宮本先生の剣を使えるんですか!?」

「どうやって覚えたニャー!?」


 高校生が言葉をなくし、先生の気持ちも落ち着いたら、リータとメイバイが血相変えて寄って来た。


「あ~。宮本先生って、よく座禅してるにゃろ? にゃにを考えてるか聞いたことあるにゃ??」

「心を無にしてると言ってましたけど……」

「それ、真っ赤な嘘にゃ。ニヤニヤしてたから気になって念話を繋いだら、恐ろしいことを考えてたにゃ~」

「恐ろしいことニャー?」

「あの人、頭の中で、ずっと人を斬りまくってたにゃ。だからあんにゃにリアルに、わしたちに錯覚を起こせたんにゃ~」

「「「「「ウソ……」」」」」


 まさか教えを乞うていた人が、頭の中では殺戮者だと知った皆は息を飲む。玉藻とコリスはいつも通り。

 でも、すぐに気を取り直して、わしにどうやって覚えたか聞いて来た。


「わしってお昼寝好きにゃろ? あんまりサボりすぎるとまた侍攻撃の精度が落ちそうにゃから、寝る前に、刀を振るイメージトレーニングとか獣を斬り裂く感覚を思い出していたんにゃ。そしたら、いい感じに睡眠学習できてたみたいでにゃ~……気付いたらできるようになってたにゃ」

「「「「「そんなことで!?」」」」」


 宮本武史の訓練方法も異常だが、わしの訓練方法のほうが異常みたい。皆は信じているようないないような顔で、剣道場をあとにするのであった。



 それからも室内競技を見ていたら、格闘技系の部活の生徒が絡んで来たけど、だいたいが触れることもできずに撃沈。

 100キロはありそうなバーベルを代わる代わる片手で軽々持ち上げたら、掴み技主体の競技の人は「やっぱいいッス!」とか言って逃げてった。ランニングに向かったと思われる。

 打撃系も、一番重いサンドバッグをわしが押さえてリータに殴らせたら、貫通どころか破裂。室内がめちゃくちゃになったので「帰ってくれ」と言われた。サンドバッグ代はきっちり払いました。


 室内競技で使えそうな物を何個か見繕ったら、外へ出て適当に見学。ラグビーやアメフトに誘われたけど、「何とは言わないけど壊れても知らないよ?」と脅したら、練習に戻って行った。自分が壊されると思ったのかな?

 そうして陸上競技を見ていたら、生徒が寄って来て「記録を取りません?」と言うので、皆でやってみることになった。


「まずは100メートル走。位置について~。よ~い……ドン!」


 一番手は、わしと玉藻の頂上対決。


「にゃあにゃあ? わしたちもう通りすぎたんにゃけど??」

「へ? え?? 3秒!?」

「いま押したにゃ~」


 わしと玉藻、計測不能。人間の目では追いきれないので、到着して3秒後の記録となってしまった。

 生徒にやらせても正確に計測できないので、わしがストップウォッチを持って記録係。次々とわしの前を走り抜け、世界記録どころか5秒を切る者が続出。


「どうじゃ? 計れたか??」

「たぶんにゃ。0.5秒で玉藻が一番にゃ~」

「そちがいないのに一番と言われてものう」


 ちなみに最下位はさっちゃんの子供だけど、大人の最下位はさっちゃん。それでも12秒台だから、成人女性としては恐ろしく速い。だから、何度もやらなくていいよ?


 高校生の開いた口が塞がらないけど、次の競技に移動。とりあえず走り幅跳びをやってみたけど、計測不能続出。砂場を飛び越えるのはまだいいほう。わしと玉藻は、グラウンドを越えちゃった。ノルンは着地しろ。

 そんなジャンプ力なら、走り高跳びも計測不能。次々と一番高いバーを普通に飛び越えて、足から着地。背面跳びもベリーロールも必要ないんじゃもん。


「いい汗かいたね~?」

「「「「「うん!」」」」」


 陸上競技はほぼ全滅。さっちゃん家族と子供たちにしか記録が残らない結果で、楽しめたのもさっちゃんたちだけであったとさ。



「今日はありがとうにゃ。あと、わしたちの記録のことは忘れてくれにゃ~。バイバイにゃ~ん」


 陸上競技で遊んだら、すたこらさっさ。呆気に取られまくる高校生に挨拶して逃げるようにホテルに帰り、次の日は東京大学に顔を出したけど、どうせついて行けないので教科書だけ大量購入してショッピングに変更。

 ホームセンターで爆買いしまくって、翌日の平行世界13日目は久し振りに休日。しかしわしはお声が掛かっていたので、玉藻と一緒にゴルフ場にやって来ている。


「仕事が立て込んでいて、お会いするのが遅くなりまして申し訳ありません。私がこの国の総理大臣、甲野です」


 内閣総理大臣のおじいさんにゴルフに誘われたからだ。


「いいにゃいいにゃ。わしはシラタマで、こっちの美人さんは玉藻様にゃ~……て、有名人にゃから知ってるか」

「ええ。それはもう、毎日テレビで見ない日はありませんでしたので」

「にゃ? さっき忙しいみたいなこと言ってにゃかった??」

「ははは。気になって睡眠時間を削ってしまいました」

「にゃはは。無理するにゃよ~」


 総理の矛盾を突いたら笑ってごまかされてしまったので、わしも愛想笑い。顔色を変えてないけど総理は嘘をついてるはずだ。


「てか、にゃんでゴルフにゃの?」

「資料に、シラタマ王はゴルフが趣味となっていましたので。私も時間があればよく回っているのでそこそこ上手いですよ」

「わしたちの最高スコア、18にゃけど大丈夫かにゃ~?」

「はい?」

「ま、見たほうが早いにゃ~」


 プロでも平均スコアは70切るぐらいなのに、その3分の1以下では総理の思考が追いつかない模様。なので、1番ホールに移動して、サンドウェッヂで高々と上げたボールを風魔法で調整して、カッコーンと穴に入れてやった。


「そ、そんな簡単にホールインワンなんて……」

「そりゃ、わしたちは魔法使えるんにゃも~ん。にゃははは」


 総理は早くも戦意喪失になってしまったので、魔法禁止のルールで回ることにした。


「じゃ、総理から打ってにゃ~」

「はあ……緊張しますね」


 とりあえず総理からドライバーで打たせてみたら、ギリフェアウェイ。まずまずの距離は飛んだ。


「ニャイスショットにゃ~」

「ちょっとフックしましたけどね」


 礼儀程度にわしが褒めたら、総理は一度素振りをしてから下がる。納得がいかないスイングだったのだろう。


「さて、わらわか。魔法なしでもそちに勝ってやろう」

「わし、玉藻に負けたことあったにゃ??」


 玉藻は嘘をついてからの、5番アイアンで鋭い当たり。グリーン手前にボールを落とし、その勢いで穴から3メートル辺りにつけたように見える。


「もうちょっと手加減してやれにゃ~」

「そちと戦うのに、手加減などしてられるか」

「これは接待ゴルフにゃ~」

「フッ……打つ前から負けた時の言い訳か?」

あおっても、わしには効かないにゃ~」


 わしは手抜きで適当に回ろうと思っていたのに、玉藻のせいで本気出す。わしの鋭い当たりは、玉藻と同じような軌跡を辿り、玉藻よりボールを穴に近付けたのであった。


「妾のほうが近いじゃろ!」

「いいにゃ。わしのほうが近いにゃ!」


 いや、ほとんど一緒ぐらいなので、総理そっちのけでケンカするわしと玉藻であったとさ。



 ちょっとケンカになってしまったが、今日は総理と回っているので、移動の間はかまってあげる。質問があるなら答えてあげて、ボールを打ったら2人で褒める。でも、わしたちを待たせているので、総理はすんごく打ちづらそうだ。

 グリーンに乗せるのも、4打も掛けてグリーン奥。総理は何度も謝罪して、7打でやっとこさホールアウト。


 ようやくわしと玉藻のグリーン上の戦いとなった。


「やっぱりわしじゃにゃい?」

「いいや。どう見ても妾じゃ」


 近付いても、ボールは同じくらいの距離だったので言い争い。キャディーさんに測ってもらっても一緒。結局はコイントスで決めたけど、わしからになったので、負けた気分になるのであった。


「しにゃった!?」

「もらった! ……ああ!?」


 1番ホールは、お互いグリーンで2回叩いて仲良くイーグル。肩を落として歩いていたら、総理が慰めてくれる。


「お二人ともとてつもなく上手いのですね。魔法なしでも、プロゴルファーよりいいスコアになりますよ」

「まぁにゃ~。わしたちの場合、力がありすぎるから、かなり手加減したスイングになるんにゃ。だから、ボールコントロールも楽になるんにゃよ」

「なるほど。ということは、お二人にはコースが狭すぎるんですね。ひとホール、パー20ぐらいがちょうどいいのでは? ははは」

「確かににゃ。にゃははは」


 総理が冗談を言ったのでわしは愛想笑いしてあげたけど、玉藻はそれを受け止めた。


「それじゃ! 妾たち用のゴルフ場があれば、もっとゴルフらしい勝負ができるぞ!!」

「にゃ~? そんにゃ馬鹿デカイの、一般人はしんどいにゃろ~」

「そこはシラタマがいい案を出せばよかろう。にっくき家康も、叩きのめすことができるんじゃぞ?」

「結局わしだよりにゃ~……でも、勝ち逃げしてるご老公を引っ張り出すには持って来いかもにゃ……」

「じゃろ?」


 ここからは、総理を蚊帳の外に出して、玉藻と相談。できるだけ今あるコースを使う方向で話をしていたら、2番ホールと3番ホールも終わった。


「もうゴルフはいいです! クラブハウスに戻りましょう!!」

「「にゃ~?」」


 3番ホール終了直後、何故か総理はキレるので、わしと玉藻の疑問の声は重なった。


「毎回ワンオンじゃやる気なくすわ! それに2人だけの世界に入るな! これなら1人でやってるのと変わらんわ!!」

「「ああ~……」」


 そりゃ、日本の権力者で1、2を争う総理大臣を邪険にしたんだから、プライドも傷付いても仕方がない。

 わしと玉藻は、元タヌキ将軍徳川家康の話をして、総理の機嫌を取るのであったとさ。

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