平行世界13日目その2にゃ~


「いや~。面白い話を聞かせてもらいました~」


 クラブハウスに戻り、わしと玉藻で元タヌキ将軍徳川家康の話で盛り上げてあげたら、総理はご機嫌。ちなみに内容の半分は悪口だったけど……


「しかし、家康公がまだ御存命で、幕府も現役とは驚かされました」

わらわも幕府が滅んでおったとは驚きじゃ。徳川の子孫もおらんのか?」

「いえいえ。いまは18代目が立派に跡を継ぎ、徳川記念館も作られたんですよ」


 現在の徳川家の話になったら、今度はわしが蚊帳の外。途中までは知っているので、スマホで最近の出来事を調べ、終わったと感じたら話に入る。


「この10年、激動の時代だったみたいだにゃ~」

「ええ。伝染病に戦争……我々自由党がなんとか舵取りをして、この日本を守りました」

「にゃ? ネットには失策の連続って書いてたにゃよ??」

「ああ。フェイクニュースを読んだのですね。自由党には敵が多いので、コンピューターの中ではよく叩かれてしまうんですよ」

「ふ~ん……総理はネットは見ないにゃ?」

「嘘ばかり載っているので、見ないようにしています」


 死んでから10年以上経ち、わしより40歳も年下の男がコンピューターと言って見てもいないのは驚きだ。


「ひょっとしてにゃけど、他国のほうがこういう技術は進んでるんじゃにゃい?」

「いえいえ。我が日本も負けていませんよ。特に自動車の分野では……」


 わしが聞きたいのはIT技術なのに、総理は日本の得意分野ばかり喋る喋る。確かに自動車の進化はそこそこ進んでいるので玉藻は真剣に聞いているが、わしは予想の範囲内なのでスマホをポチポチ。

 しかし、総理の発言はなんだか自分の自慢話になって来たので、玉藻も聞くに耐えなくなってわしに助けを求めた。


「にゃに~? 肘打ち痛かったんにゃけど~??」

「ゲームで遊んでいないで、そちも話を聞かんか」

「わしはゲームにゃんかしてないにゃ~」


 玉藻は冤罪を吹っ掛けて総理の話を止めたかったみたいだけど、肘打ちで充分。とんでもない音が鳴ったので、総理は口をあわあわしてる。


「てか、40年近く経済も悪いし出生率も悪いけど、その自由党はにゃにをしてたにゃ?」

「もちろん打てる手は全て打っております。だからこそ、日本の現状を踏み留めていられるのですよ」

「打てる手を全て打って、この程度なんにゃ……」

「この程度とおっしゃいますが、シラタマ王の世界とは違い、ここ日本は成熟仕切っております。発展途上国と一緒にされたら困りますね」

「にゃにを困っているかわからにゃいんだけど、成熟した国と発展途上国だと、発展途上国のほうが出生率が多いにゃろ? にゃんでかわしに教えてくれにゃ~」

「そ、それは……」


 よくわからない理論を総理が展開するので質問したら、言い訳続出。裕福になると若者が結婚しないだとか、若者が仕事しないだとか、女性が仕事に没頭するとか、女性が子供を産まないだとか……


「おい……それは若人わこうどと女に責任を……」

「にゃ! 玉藻。若人にゃんて、いまの世では死語にゃ~。やっぱり玉藻ってババアだにゃ~」

「誰がババアじゃ!」


 玉藻が総理に噛み付きそうだったので、とりあえず阻止。ただし、玉藻がわしにめちゃくちゃキレるので止めるのが大変だった。


「謝ったのに、にゃんで噛むんにゃ~」

「謝罪が遅いんじゃ」

「それにゃら叩くとかにしてくれにゃ~。リータたちに歯型を見られたらどうするにゃ~」

「毛があるのに見えるのか?」


 見えるかどうかはわからないけど、いい大人が噛むのはどうかと思う。しかしこれ以上ケンカしている時間もないので、玉藻にちょっと魔法を披露してもらい、わしはこっそりと後ろから総理に近付くのであった……



 パシャパシャッとフラッシュを浴びせ掛けられた場所は、クラブハウスのロビー。わしと玉藻は、総理と共に会見に出ている。


「総理。シラタマ王のゴルフの腕前はどうでしたか?」

「どうしてすぐにラウンドを終えたのでしょうか?」

「まあまあ。君たち、落ち着きなさいよ」


 総理がどうしても会見をやりたいとか言うからついて来てあげたのに、総理はわしたちを無視して喋る喋る。玉藻が「殴って黙らそうか?」とか念話で言っているので、そろそろマイクを奪ったほうがよさそうだ。


「と、日本の素晴らしい技術を紹介していたのだ。それはもうシラタマ王も熱心に聞いて……」

「ないにゃ~。話がつまらないから、途中からスマホいじってたにゃ~」

「「「「「あはははは」」」」」


 わしが上手く話を奪ったら、マスコミはドッと大笑い。総理の話に飽きていたようだ。


「まだ私が話をしているじゃないですか」

「聞いてたけど、わしたちと関係ない話してたにゃ~。みんにゃもそんにゃ話より、わしたちの話を聞きたいにゃろ?」


 マスコミに質問してみたが、微妙な顔。総理の話をつまらないと口に出せないのだろう。笑ったクセに……


「まぁそうですね。シラタマ王の話も面白いので、是非とも聞かせてください。皆さんも、面白い話をしっかり聞くのですよ」


 総理は空気を読んでわしにマイクを譲ってくれたけど、そんなザックリして面白いを連呼する渡し方はないわ~。


「ちょっとした質問にゃんだけど、この会見って、選挙に有利になるように開いてたりしてないよにゃ?」

「はい。国民の皆さんに、シラタマ王の話を届けたくて開きました」

「命令にゃ。わしには嘘偽りなく答えろにゃ。もう一度聞くけど、この会見を開いた理由はにゃに?」

「ですから、こんな目立つ生物と一緒に映っていたなら、それだけ私が際立ち、次の選挙の票に繋がると助言をもらったからです…よ……へ??」


 わしの命令に総理はムッとしながら答えたが、最後まで喋りきってから、自分が口に出したい内容を喋っていないと気付いた。


「やっぱりにゃ~。どうりでしつこく会見したいと言ってたんにゃ~」

「ちが……いません。シラタマ王のおっしゃる通りです……なんで!?」

「にゃはは。わしと一緒にいると、みんにゃ正直者になっちゃうんにゃ~」


 もちろんこれは大ウソ。単純に、痛みの発生しない契約魔法をこそっと総理に掛けていたので、わしの命令に逆らえないのだ。


「ところで、にゃんで景気対策も少子化対策も本気でやらないにゃ?」

「そんなことしても、票に繋がらないからです……なんで口が勝手に……」

「いや、景気が良くなれば票に繋がるにゃろ?」

「いえ。失敗する可能性のほうが大きいと財務省が言っております。ならば、わざわざ私が総理の間にやる必要はありません……か、帰る!」

「もっと総理のお話が聞きたいにゃ~」

「はい!」


 これ以上の失言を避けたい総理は勢いよく立ち上がったが、わしの言葉でお座り。体まで言うことを聞かないので、総理の顔は真っ青だ。


「少子化対策はどうにゃの? 20年後、30年後の票に繋がるにゃろ?」

「選挙に行かない若者と、選挙に行く老人だったら、老人に金を配ったほうがいいに決まってますからね」

「そのせいで日本が弱くなるって、にゃんでわからにゃいの?」

「わかっていますとも。でも、私の代では表に出ないのだから、失敗するかもしれないことをわざわざやる必要ありませんよね」

「つまり、総理のイスにしがみついていたいがために、難しいことはやりたくにゃいと……」

「総理のイスより、政治家ですね。給料は自由に決められますし、何より馬鹿な国民が先生先生と呼んでくれますから、やめられませんよ~」

「そりゃそうだにゃ。にゃははははは」


 わしが大声で笑ってるのに、マスコミは全員ドン引き。総理も自分で言ってるのに、顔が真っ青どころか真っ白だ。


「にゃはは。ああ~。おっかしいにゃ~」


 わしが笑い続けているのに誰もツッコんでくれないので、自分でツッコム。


「こんにゃ人をトップに選ぶにゃんて、日本ってすっごく平和だにゃ~。超羨ましいにゃ~。んじゃ、会見を終了しにゃ~す」

「「「「「……」」」」」


 いいツッコミも思い付かなかったので、嫌みを言って締めたが、まだマスコミは動けないようだ。そこでわしは立ち上がったところで忘れ物に気付いたので、総理に語り掛ける。


「あ、そうそう。天皇陛下のお言葉は、絶対に邪険に扱うにゃよ?」

「はい……」

「んじゃ、いつも通り過ごしてくれにゃ~。バイバイにゃ~ん」


 手をヒラヒラとして玉藻と一緒にロビーから出たら、静まり返っていたロビーから怒号が聞こえて来た。わしたちはその声から逃げるように、リムジンに乗り込むのであった。



 リムジンに乗ったら、運転手には「いますぐかっ飛ばせ!」とお願いして、しばし無言のドライブ。わしはスマホをポチポチとしてニヤニヤしていたら、玉藻に奪い取られた。


「にゃに~?」

「これの操作方法を教えよ。あと、日本の歴史が詳しく載っている物も用意してくれ。頼む」

「まぁいいんにゃけど……運転手さん。大きにゃ本屋に寄り道してくれにゃ~」


 玉藻が真面目な顔で頼み事をしているので、わしはそれを全て叶える。とりあえず本屋に着くまで、わしは玉藻を隣に座らせ、スマホの使用方法と検索方法を頑張って教えるのであった。


「ここをポチッと……なんじゃ? なにも変わっておらんぞ」

「だから~。ちゃんと押せてないんにゃ~。にゃん回言わせるんにゃ~」


 玉藻おばあちゃんは機械が苦手なので、めちゃくちゃ手こずるのであったとさ。



 それからなんとか玉藻もスマホ検索ができるようになったと思うけど怪しいとも思うけど、わしだけで本屋に入ったら、店長が泣きながら土下座して来た。

 ここは前回行った本屋のライバル店。わしに爆買いして欲しいから、こんな出迎え方をしたんだって。

 そう言われても、わしは歴史書を買いに来ただけ。さっさと持って来いと怒鳴り散らしてやったけど、涙は一向に止まらない。仕方がないので……というか、うっとうしいので無理難題を言ってみる。


「英語の本にゃら、いくらでも買ってやるにゃ」

「本当ですか!? おい、ネットで片っ端から買い漁れ!!」

「それでいいにゃ?」


 まさか他所のお店から買い取るとは想像していなかったので、無理するなと言って止めたけど、利益よりも平行世界人との繋がりがほしかったようだ。これで他店と同じ宣伝ができるとか「うひゃうひゃ」笑ってるし……

 ちょっと気持ち悪いが、そこまで頑張ってくれるなら有り難い。お取り寄せを正式な仕事として書面を交わし、わしは本屋をあとにするのであった。

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