平行世界11日目その1にゃ~


 サッカースタジアムからバスに揺られてホテルに戻ったら、情報協定が結ばれているはずなのに、ホテルの前はマスコミの壁。何事かと思ったら、勇者の世界の話が聞きたいそうだ。

 なので、リータたちは先に部屋に行ってもらい、わしとノルンでホテルの前でぶら下がり会見を開くことになった。


「これは、ここの宇宙のどこかにある惑星に、神様に拉致られ……ぎゃっ!? つつつ……神様からお願いされて、ちょっと手伝った話にゃ~」

「「「「「うおおぉぉ~!!」」」」」


 異世界転移はアマテラスに拉致られたのでそのまま言ったら、わしの頭にタライが落ちて来たので言い直す。タンコブができたけど、マスコミはこの宇宙に知的生命体がいると知って、いまはそれどころではないみたいだ。

 ちょっと補足してもらおうとノルンを連れて来たけど、ノルンのほうが詳しく覚えているので、立場が逆。


「ノルンちゃんの大活躍で、世界を救ったんだよ~!」

「嘘つくにゃよ~」


 けど、ちょくちょく嘘をつくので、わしが補足しまくった。たぶん、ベティの性格が反映されていると思われる。


「いくんだよ~? マジカルチェンジだよ~!」

「「「「「おおおお~」」」」」


 さらにサービスで、ノルンは魔法少女変身グッズも使うので大人気。最後のほうは、写真撮影会みたいになるのであったとさ。



 ぶら下がり会見が終わって部屋に帰ったら、皆は各々好きなことをやってテレビを見ていなかったので、ちょっと寂しかった。けど、ベティだけ見ていたらしく、「あたしも目立ちたかった~!」とか絡まれた。

 だから魂年齢を思い出させて、エミリにも「魔法少女に変身したい?」と言ったら拒否られていたので静かになった。娘より精神年齢が低いのは、母親として恥ずかしくなったのだろう。


 んで、翌日の平行世界11日目は高校の視察にやって来た。


「リータたちはこっちにゃ~」


 子供たちは勉強について行けないので到着早々に図書館に連れて行ったのだが、わし以外は図書館に残ろうとしたのでムリヤリ連れ出し、今日も授業参観。

 皆は中学校の学力にもついて行けないから涙目で授業を見ていた。これではさすがにかわいそうなので、実技系の授業に変更。

 家庭科や体育、情報技術の授業を見学していたら、美術の授業で生徒が突撃して来た。


「「「「「モデルになってください!!」」」」」


 平行世界人は大人気。全員、穴が開くほど見られ、凄い勢いで描かれた。


「あなたはダメね。あなたは……もう少し上手くなったら、城で雇ってあげるわ」


 さっちゃんは芸術センスがあるので絵に批評なんかしていたけど、スカウトしても連れて帰れないよ?

 リータたちは自分の絵は嬉しいのか、上手い下手関係なしに褒めて、生徒から絵を貰っていた。そんななか、ベティとノルンが急に笑い出した。


「きゃははは。シラタマ君、青く塗られてるわよ?」

「そっくりなんだよ~。きゃははは」

「誰にゃ!? 色塗りやがったのは~~~!!」


 あと、ふざけたヤツがいたので、絵は破り捨ててやったとさ。



 この高校では給食ではなく学食らしいので、お昼が始まる前に食堂で軽食。生徒がやって来る前に空き教室に移動して、猫の国料理で腹を膨らませる。

 今日はわしたちのために午前中までの授業に変えてくれたので、お昼からは子供も連れて部活見学だ。


「へ~。こんなにスポーツがいっぱいあるんだ。うちでもできるのないかな~?」


 さっちゃんが言う通り、スポーツに力を入れている高校にやって来ていたので、実は視察の本番はここからだ。


「結局は魔法がネックだからにゃ~……魔法ありでやれるスポーツを考えたほうがいいかもにゃ」

「なるほど~。アレなんて楽しそう!」

「ちょっとまぜてもらおうにゃ~」


 とりあえずさっちゃんが興味を持った物は、実践。テニスをやってみたけど、さっちゃんは風魔法を使うなと言っておろう? リータは絶対やるな。メイバイも手加減せい!


 なかなかラケットに当たらないさっちゃんはムキーってなって、風魔法で打ち返すのでテニスにならない。

 リータはサーブで空振りしたからいいものの、当たっていたら殺人サーブになりそう。メイバイも殺人サーブを打ったので、レフェリーストップ。


「お、上手いにゃ~」


 子供たちは普通にラリーしているので、これは普通の人のスポーツとしては成り立ちそうだ。ただし、わしの実子3人は、まだ幼いのにトップアスリート並みのラリーをしていたから、高校生を引かせていたけど……


 ちょっと遊んだら、次へ移動。皆で何か使えそうなスポーツがないかとワイワイ見学していたら、剣道場の前で袴姿の男子生徒に絡まれた。


「僕たちと戦ってください!」

「「「「「お願いします!!」」」」」


 わしが刀を使っているから、刀大好き男子どもが寄って来たみたいだ。


「わしの剣は侍の剣にゃから、危険なんにゃ。ゴメンにゃ~」

「「「「「なおさら見たいです!」」」」」


 高校生はさらに熱くなっているけど断り続けていたら、玉藻が動く。


「ちょっとぐらいよかろう。そちがやらんなら、わらわが見せてやるぞ」

「「「「「やった~~~!!」」」」」

「じゃあ私も」

「私もやるニャー!」

「あたしもやろっと」

「ノルンちゃんもだよ~」

「死人が出るにゃ~」


 わしは止めているのに、リータ、メイバイ、ベティ、あとノルンまでマジカルチェンジしてやる気満々。竹刀持てないのに……

 戦闘狂がこうなっては仕方がない。わしは皆に「絶対に殺さないでください」と土下座してから道場に上がるのであった。



 わしが変なお願いしたせいで高校生はかなりビビッてしまったが、自分たちで言い出したことだから覚悟を決めて防具を装備。

 リータたちも防具を勧められたけど、そんな物なくても竹刀程度で怪我する人はいないと断ったら、高校生はまたビビッていた。ノルンは元々装備できない。


「んじゃ、先方は……ベティからいってみるにゃ?」

「きえ~~~!」

「それ、まだ早くにゃい?」


 ベティがめっちゃ手を上げていたので選んであげたら、まだ開始線にもついていないのに、気合いの雄叫び。わしがツッコんだら、てへってしてた。


「そんじゃあ、絶対に怪我させるにゃよ? はじめにゃ~」

「うお~~~!」

「いや、ベティ。ここで言うんにゃ~」


 高校生が気合いの雄叫びをあげてるのに、ベティは忘れていたのでてへぺろ。その隙を突いて、高校生の先制攻撃。


「えっ……」

「当たってにゃいけど、面アリの一本にしとこうかにゃ?」


 しかし、先にベティの寸止めが決まったので、わしは高校生に確認を取った。


「どうして……」

「これが、侍の剣にゃ。この試合で、竹刀を振り下ろせると思うにゃよ? んじゃ、反対意見もないようにゃし、次いこうにゃ。その前にベティ。面でも胴でも、寸止めしたら言ってやれにゃ~」

「な~んか忘れてると思ったら、それか~。オッケー」


 ベティが軽い感じで開始線についたら、始めの合図。今回は最初の気合いも終わりの胴も綺麗に決まったベティであった。



「ノルンちゃんだよ~!」


 次鋒はノルン。とりあえず竹串を持たせてみた。


「えっと……どう戦えと?」

「ハチと戦う感じでどうかにゃ? はじめにゃ~」

「きえ~だよ~」


 いちおうアドバイスしてみたけど、体格差がありすぎて勝負にならず。もちろんノルンが素早すぎるので、胴と面に竹串が決まって折れたから、これで決着となった。

 まぁ高校生も、妖精と戦えたんだから、いい思い出になっただろう。


「リータも寸止めしてやるんにゃよ~?」

「はい! ……できるかな?」


 中堅のリータは不安そうに呟いていたので注意して見ていたが……


「リータ、教育的指導にゃ! 一発退場にゃ~~~!」

「すいませ~~~ん! 怪我はないですか??」


 わしが割り込んで竹刀を止めたからいいものを、フルスイングしやがったので退場。その風圧だけで対戦者が飛んだんだから、わしの判定は正しい。もちろん竹刀は木っ端みじんになったので、弁償代は払いました。


「メイバイも頼むからにゃ?」

「あはは。不器用なリータと一緒にしないでニャー」


 副将戦も、メイバイに教育的指導。


「寸止めしろにゃ~!」

「忘れてたニャー! だ、大丈夫ニャー!?」

「オニヒメ、看てやってにゃ~」

「は~い」


 王妃揃ってやりずき。また竹刀も折れて弁償。でも、エルフと猫耳娘に膝枕された高校生は幸せそうだな。クソガキどもめ……


「はぁ~。どいつもこいつもたいしたことないのう」

「わかりきってたことにゃ~。てか、玉藻はもう少し試合になるように戦ってやれにゃ~」


 大将の玉藻はため息を吐いていたので、先に教育的指導。そのおかげで受けに回ってくれたので、剣道の試合に見えなくもない。


「なるほどな。本丸を攻める前に手を斬るのか。真剣でやったなら、ポトリと落ちて血が噴き出しそうじゃな」

「無駄口叩くにゃ! 負けにするにゃよ!!」


 玉藻は剣道の小手を褒めているようだけど、怖いことを言うので高校生が怯えてしまった。なので、もう一発教育的指導を出してやろうかと思うわしであったとさ。



 玉藻の竹刀をコツンと頭に受けた高校生が下がったら、侍講習をしてみたけど、受けた高校生すらちんぷんかんぷんって顔。なので、玉藻とイサベレに竹刀を持たせ、侍攻撃だけの実演をしてあげる。


「このように真剣どうしにゃら、受けたりせずに間合いの取り合いになるんにゃ。だってそうにゃろ? 小手で動脈にゃんて斬られたら、勝負が一気に傾くんだからにゃ」


 玉藻とイサベレが前に出たり下がったりを繰り返している説明は、高校生にもわかってもらえた。


「問題はここからにゃ。みんにゃは先の先って知ってるにゃろ? 相手より先に攻撃を入れるヤツにゃ。君たちがやっているのはただの先制攻撃って感じにゃんだけど、侍の先の先ってのは、実はカウンターなんだにゃ~。脳が体を動かすには……」


 少し難しい話であったが、高校生は「マンガで読んだことある~!」と大盛り上がり。理解はできたようだけど、実践はおそらく無理だろう。

 そんな感じで説明していたら、玉藻VSイサベレの侍対決は、イサベレに軍配が上がるのであった。


「おお~。大番狂わせにゃ~」


 皆にも力関係を説明していたのでイサベレに温かい拍手が送られていたが、玉藻は言いたいことがあるようだ。


「してやられた。なんじゃあの剣は……そちは知っておったか?」

「にゃんのこと?」

「イサベレのヤツ、習ったこと以外のことをやっておったぞ」


 玉藻から詳しく聞くと、イサベレの最後の攻撃は無数の殺気が放たれたので、玉藻は先に攻撃をさせられてしまったらしい。


「おお~。後藤銀次郎の剣をパクったにゃ? いや、編み出したのかにゃ? 相変わらずの天才だにゃ~」

「私より先にやってた人いたんだ。今度、立ち会いに行こう」

「あやつ、妾の時にはそんなことしなかったぞ。今度は本気を引き出してやる」

「もうヨボヨボにゃんだから許してやってにゃ~」


 玉藻は銀次郎と立ち会ったことはあるけど、今ごろ手を抜かれていたと知ったので、イサベレと行くらしい。わしの祖父にそっくりな銀次郎が、寿命より先に死なないことを祈るわしであった……

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