平行世界8日目その3にゃ~


 魔力問題は、わしたちがギブアップしたから記者は優しい聞き方になったけど、「でちゅか~?」とか赤ちゃんレベルにまで落とさなくてもいいと思う。てか、どうにか魔法が使えないかとワイワイ喋っているのでわしたちは蚊帳の外だ。


「まぁビッグバンも神様の魔法とか時の賢者が言ってたから、もしかしたらこっちでニュートリノとかダークマターとか言われている物の正体は、魔力かもしれないにゃ~」

「「「「「詳しく!!」」」」」


 注目を集めて違う話に行こうと、ちょっと賢い振りしたのは大失敗。興奮した記者が押し寄せた。しかし、時間が迫っているのにこの質問ばかりで終えていいのかと説得したら、舌打ちしながら下がって行った。


 それからは、だいたいの質問が自国のことになったので、わしが行ったことのある国の記者は嬉しそう。でも、滅んでいる、もしくは人がいないと言った国の記者は悲しそうにしていた。


「中国は国土が広いのですから、探したらもっと生き残りがいるのではないでしょうか?」


 たまに食い下がって来る記者がいるので、相手をするのが面倒だ。


「かもしれにゃいけど、探すの大変なんにゃよ?」

「そこをなんとか! シラタマ王も漢民族なのですから、探すべきです!!」

「いや、わしは森の猫にゃ~。それに、猫の国があるのはチベットにゃから、チベット人の間違いにゃろ? いや、ウイグルだったかにゃ? ウィグル人かもしれないにゃ~」


 この記者はなかなか引き下がらないので挑発してみたら、あからさまにムッとしてる。


「チベット自治区もウイグル自治区も中国の一部ですよ。ウイグル族も、もちろん中国の民です」

「ふ~ん……じゃあ、日本のあとは中国に行こっかにゃ~?」

「お、おお! 国家主席も喜んでくれるでしょう!!」

「じゃあ、その時はチベットとウイグルの案内よろしくにゃ~」

「……へ?」


 あんなに喜んでいたのに、わしがチベット自治区とウイグル自治区に行きたいと言ったら記者は固まった。


「猫の国があるのはそのふたつの辺りにゃんだから、そこに行くに決まってるにゃろ?」

「いや、その、首都は北京でして……」

「にゃに? チベットやウイグルに行けない理由でもあるのかにゃ??」

「その、何もないので……」

「うちよりはあるにゃろ? だって、猫の国はこの世界の基準に当て嵌めると、発展途上国にゃも~ん」

「あの、その……」


 急に歯切れの悪くなった記者に、わしは鋭い視線を送る。でも、とぼけた顔をしてるので伝わったかどうかわからない。


「まさか……人権侵害してるにゃ? だからわしに見せられないにゃ? これはますます行かなくちゃいけない理由ができたにゃ~」

「そんなわけないでしょ! ちょっと電話が入ったから席を外します~~~」


 わしが大声でそんなことを言ってみたら、記者はダッシュで逃走した。


「逃げちゃったにゃ……え? 冗談で言ったんにゃけど、マジだったにゃ??」


 わしの問いに、記者たちは唸りながら首を縦に振った。てか、わしだって知ってるから、わざと追い詰めてやったのだ。


「まぁいいにゃ。次、いってみようにゃ~」


 世界的に注目の集まる場で、人権侵害していると宣伝してしまったが、わしの知ったこっちゃない。わしはニヤニヤしながら質問に答えて行くのであった。



「この地図は、確かな物でしょうか?」


 自国のことを聞きたがるターンが最後のほうになったら、記者が資料にある日本地図を指差しながら立ち上がった。


「その辺は航空写真から地図にしたから、わりと正確だと思うにゃ」

「どこが正確なのですか! 日本政府から我が韓国を消すように言われたのではありませんか!? だから靖国神社なんて酷い場所に行っていたのですね!?」

「いや、日本政府は要求なんてして来ないんにゃけど……」


 急に怒鳴られても、朝鮮半島が半分消えているのはわしのせいでも日本政府のせいでもない。でも、この記者は狙いがあるように見えたので、おちょくっておこう。


「あ、そういうことにゃ。この平和な会で、難癖付けて日本をおとしめたいんにゃ~。そういうのは、別の場所でやってくんにゃい?」

「ち、ちが……」

「そういえば玉藻って、任那みまな日本府って知ってるにゃ?」

「任那日本府……どっかで聞いたことがあるな……」

「おお~。喜べにゃ。玉藻が知ってるってことは、韓国があったってことにゃ~」


 記者は喜ぶに喜べないといった複雑な顔をしているが、わしはヒントにならないかと、百済くだら新羅しんらという単語を言ってみた。


「思い出した! 母様が、百済とは付き合うなと言っておったんじゃった」

「それはにゃんで?」

「名前は忘れたが、大陸の勢力から助けてくれと言って来たから母様が出張ったんじゃ。しかし、母様が帰ったら、あろうことか大陸側に付いて、任那日本府は潰されたんじゃ。あんな白状者とは付き合うなと、母様はえらくご立腹じゃったぞ」

「えっと……にゃんか聞いたことがある話だにゃ~。確か日本にしてくれとすり寄って、太平洋戦争で日本が負けたら、自分たちは日本の植民地だったと言ったとかどうとか……」

「なんじゃと? こっちでは伝わっておらんかったのか? 皆も百済とは付き合わないほうがいいぞ。必ず裏切られるからな」

「と、古い歴史に詳しい玉藻さんが言ってるんにゃけど~?」

「うっ……」


 わしが玉藻の攻撃をぶん投げたら記者にクリティカルヒット。お腹を押さえてノリがいい。


「そもそもにゃんだけど、この世界とわしたちの世界の地図を合わせると、所々違うにゃ。日本だって、島がいくつも消えてるのに、にゃんでそのことに触れずに日本政府のせいにしてるにゃ?」

「ちょっとトイレに行って来ま~す!!」


 ついでにわしの会心の一撃。記者はお腹を押さえてダッシュで逃げて行った。たぶん、これ以上何か言われたくなかったのだろう。


「でも、にゃんで大陸があんにゃに削れてるんにゃろ?」

「さあな~? 天皇陛下を裏切った罰ではないか??」

現人神あらひとがみじゃ無理にゃって~」


 当時の人ならばそれで納得するだろうが、現代人のわしは納得できない。天変地異か巨大魚の突撃で削れたのかと仮説を立てるのであった。



 玉藻と盛り上がっていたけど、区切りが付いたら質問が再開したので、自国の質問のターンも終了。次はわしたちの地球についての質問を、頭が悪いなりに頑張って答えていた。


「先ほど白い森と黒い森が作られるのは、魔力が関係しているとおっしゃいましたが、魔力の正体は化石燃料ですよね? こんなに広大な大地に広がるとは思えません。他に思い当たる節があれば、お答えください」


 海外の記者はちょっとでも矛盾があると、そこを突いて来るので大変だ。


「いい質問だから答えてあげたいんだけどにゃ~……」

「と、言うことは、答えは知っているけど言いたくないと……」

「わしは言いたいんにゃよ? でも、神様が許してくれるかどうかにゃんだよにゃ~」

「タライが落ちて来るあの現象ですか……質問の答えはいいので、それを見せてください!」

「本末転倒だにゃ!?」


 タライはめっちゃ痛いので断ったのに、ここにいる全ての人からタライコールが起こってうっとうしい。さっちゃんと玉藻までタライコールしないでくれる?

 ここはタライが落ちないように、質問の答えを調整してなんとか切り抜けたい。


「えっと……神様がにゃ。戦争を、止めたから……魔力まみれに、なったんにゃ。よっにゃ! セーフにゃ~~~!!」

「「「「「ブーブー!!」」」」」


 無事、禁止事項に引っ掛からず言い切ったのに、全員ブーイング。さっちゃんと玉藻はブーイングやめてくれない?

 次の質問者に移るように言っても、帰るぞと脅しても、まったく聞きゃしない。さっちゃんと玉藻がマスコミの味方に付いて離してくれないから、こいつらが調子に乗るんじゃ!


「この世界の管理者の名前は、ぎゃっ!?」

「「「「「ブラボー!!」」」」」


 なので自分からタライを落とし、大きなタンコブを作るわしであったとさ。



「いいにゃ! さっきわしが言ったことを忘れるにゃよ! いつ、この地球もうちと同じようになるかわからないんだからにゃ!!」


 スタンディングオベーションが鳴り止まないので、わしはキレながらの文句。いちおう忠告は聞こえていたのか、タブレットやスマホにメモっていたと思われる。わしのタンコブ写真を撮ってるだけかもしれないけど……


 質疑応答は買い物の話に変わり、わしの爆買いが豪快だと笑っていたら、次の質問者がいらんこと言うので記者の目の色が変わる。


「この日本の企業や大学に対しての技術の交換は、我が国も参加させていただけないでしょうか?」

「「「「「うちもうちも!!」」」」」


 そう。わしが日本の技術も爆買いしようとしているからだ。それを前情報で流しているから、世界中の権力者や企業が狙っているのだ。


 対価は、この世界では手に入らない物。魔道具や魔鉱、白黒の獣や魚等々。絶滅した旅行鳩やマンモス等々。

 さらにイースター島やマチュピチュといった伝承があやふやな研究資料、各地の先住民の写真と髪の毛といった民俗学の研究に役立つ物も多数売りに出している。

 これらをオークション形式で、多くの技術をくれる企業から順番に欲しい物を取っていく。どうせわし以外世界を渡れないし、利益も不利益も出ないだろうから、けっこうくれるのではないかと期待している。


「日本は騒がしてしまったから、迷惑料で払うんにゃ。それに企業の数が増えすぎると面倒なんにゃ~。まぁ交換する技術があまりにも少ないと、アメリカ辺りに移動して売ろっかにゃ~?」

「よっしゃ~!」

「「「うちも技術は自信があります!」」」


 アメリカの記者が飛び跳ねて喜ぶなか、数ヵ国は圧が凄い。その他は意気消沈。技術があまりないのだろう。

 アメリカには欲しい技術があるから交渉したいけど、この場では暴動が起きそうなのでいまはやめておく。あとで個人的に記者に電話して、窓口になってもらおう。



 技術のことでは一時混乱したが、それからもイロイロ答えていたらそろそろお開きの時間が迫り、最後の質問となった。


「シラタマ王は天皇家とお会いしていましたが、総理と会う予定はないのでしょうか?」

「いちおう外務省から見張りは付いてるんにゃけどにゃ~……まったくその件を言って来ないから、向こうが会いたくないんじゃにゃい?」

「そうでしたか。我が国でしたら、国賓待遇で官民一体で接待しますよ? どうですか? 明日からはうちに来られては??」

「うるさくなるから勧誘はするにゃよ~」


 最後の最後は、また勧誘合戦。もうお腹がペコペコなので、わしたちは無視して騒がしい外国人記者クラブをあとにするのであったとさ。

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