第26話 南の国のダンジョンへ

 それからは、1週間かけてミリムちゃんのグローブとキースくんの鞘を修復した。


 どちらも結構使い古されているようだったけど、キングベアの情報を確認しながら慎重に手を加えていった。

 キースくんの鞘の素材は何回か手がけたことがあるけど、キングベアは初めてだ。やっぱり新しい素材は緊張する。艶も出るようになったので、こういうのも私もはめたら強く見えるのかなと羨ましくなった。


 ミリムちゃんの手に合う他の両手用のグローブもあったので、予備としてそれも使ってもらうことにした。マークが入っているから、それなりの人がかつて作ったんだろうと思う。



 6人暮らしとなって、ちょっと部屋が狭く感じられたけど、同じ冒険者稼業ということで、すぐにみんな打ち解けていた。

 カシムさんから冒険者とは、という道を説かれていて、二人とも真剣に聞き入っていた。その道の人たちに聞くのが一番良いよね。

 出会った最初はとげとげしい二人だったけど、徐々に態度を軟化させていった。年相応の表情を見せるようになった。ずっと気を張り詰めて生活してきたのかもしれない。


「あいつら、やっぱり他のやつらにも嘘を教えてたってさ。本当に精神が歪んでんじゃないかな。今度闇討ちしてやろうかな」


 ハンナさんは気になっていたのか、あの男性たちの情報を収集していたようだ。


「ここだけの話、以前から悪さをしているんですが、なかなか尻尾が掴めずに困ってるんですよ。そういう狡猾さがあるんです。他の町でもそうだったようです」


 今日はリリーさんも一緒に夕飯を食べている。7人はちょっと多いな。

 リリーさんも新米冒険者が脱落していく現状は納得できていないようで、ギルドマスターのトマスさんもどうしたものかと常々考えているらしい。盗聴器とかを仕掛けておきたいよね。


「まあ、そういう人たちには神罰が下されると思いますよ」


 ヨハンくんがさらっと恐ろしいことを言う。

 神様か、いるんだろうか。いてほしいな。


 

 グローブよりも鞘の方が早くに修復ができ、ヨークさんの仕事も早かったので、先にキースくんの武器が整った。二人はすぐに簡単な魔物討伐の依頼を受けた。ミリムちゃんのグローブはまだだったけど、代わりのグローブで対処ができたようだ。


「この短刀に力が戻って来ました」


 キースくんが討伐を終えてから私に言ってきた。ヨークさんが残存回数を回復させたということなんだろう。やはり専門だったようだ。

 実はこういうメンテナンス代は安くない。相場はわからないが、カシムさんが言うにいは「やはり金貨40、いや50枚は必要なんじゃないか」と言っていた。そのくらいの短刀だったし、そのくらいの技術料でもある。


 それなのにヨークさんは「いいっていいって」と固辞したのだから、太っ腹だ。それでも納得しないキースくんに「出世払いだ」とヨークさんは言った。この工房、商売成り立っているんだろうかと逆に心配してしまった。


「私もこのグローブを身につけていたら、素早さや力が上がっていたような気がした」


「ああ、もしかしたらまだ残存回数が残ってたのかもしれないね。引き取った物の中にはそういうのがあってね」


 二人の靴も動きやすいものにしたので、その効果も残ってたのかもしれない。


 二人には【収納】の効果の残っている鞄もプレゼントしていた。

 この町にやってきてからも鞄は回収できたので鞄の数が増えていく。私のスキルのレベルアップのためにも日々クリーニングをしたいからね。

 ヨハンくんたちと同じように遠慮したが、在庫処理に協力してもらいたいのだと伝えると、受け取ってくれた。今は好意に甘えるのが得策だと知ったのかもしれない。

 だから、魔物を討伐してもすぐに鞄に入れて、新鮮なまま換金ができたそうだ。


 いつもギルドから帰る途中に気づくんだけど、私の持ってる鞄の【収納】効果の残存回数を確認し忘れる。まあ、せいぜい1回くらいしかないからなあと思っているから、つい忘れちゃう。鑑定具は買えないからな。




「新しいダンジョンですか?」


 カシムさんたちがゴボスさんから聞いた情報だった。もう少しのんびりとしたかったゴボスさんにカレーナさんが「いい加減に働きな!」と怒られて再開したんだって。ゴボスさんとケージくんが南の国に行った時に、その国で新しくダンジョンが発見されたという。

 未踏破のダンジョンにはお宝がいっぱいらしくって、多くの人が我先にと向かっているらしい。ホットスポットになっている。この町の冒険者も向かっているようだ。


「そうそう。そろそろ私たちも別のところに行ってもいいかなと思っててね。それで今度の定期便で行こうと思ってるんだ」


 だいたい2、3ヶ月で別の場所に移るのがハンナさんたちだった。


「そうなのか。うーん、私も行ってみてもいいかな」


「本当? でも戦えないんでしょう?」


「ああ、そういうことじゃなくて、別の国の衣類にも挑戦してもいいかなと思い始めててね。南の国だとまた違った素材を扱ってるらしいから、その勉強も兼ねて行こうかなと」


 これはヨークさん情報で、南の国にも職人さんがいて、この国とは別の加工の仕方をしているらしくて、クリーニングの勉強になると思った。


「ダンジョンの入り口前には他の店も出したりしててね、衣類回収もされてると思うよ」


「そっか。だったら私もお邪魔しちゃいます」


「助かるよ。テント張ったり、いちいち町まで戻ってまたダンジョンに潜るのはしんどくてね」


 こうして、私たちは次の国に向かうことになった。


 ミリムちゃんとキースくんも同行する。これにはキースくんのスキルが関係している。


「【罠感知】があります」


 キースくんがスキルを教えてくれたら、カシムさんが嬉しそうだった。


「新しいダンジョンには罠が多いからな、【罠感知】を持っている人間がいると随分と助けられる」


 そういうことのようだった。それにパーティーが3人よりは5人の方が心強いところもあるようだ。ミリムちゃんとキースくんは新米だからといって弱いわけではないようだった。だから戦力としてもカウントされている。

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