第14話 資材の補充

 1時間ほど経っただろうか、頭の中でピコンという音が鳴り響いた。


「あ、これは」


 オープンと言って確認すると、スキルのレベルが上がっていた。

 カールさんの話によれば、スキルが上がると本人の頭の中で音が鳴るらしい。案の定、そうだった。あまり画面の説明欄を読んでなかったんだよな。


 シミ抜き作業を一旦中断して、スキル情報を見ていた。


「わ、結構いろんなものが買えるんだ」


 防犯レベルを上げたり、設備も充実させることができる。

 私が使ったことのない機械についてはまだ購入するつもりはないけど、そのためには家にある本で勉強をしないといけない。祖父が集めていた本で、ハウスクリーニングとかビルクリーニングなどの本もあるけど、こちらに目を通すのはもう少し先だ。

 一応、カタログの表示欄の詳細説明があるけど、いくらスクロールしても終わりがないくらい長い。


「そういえば、まだ資材の補充はしていないんだよな。そろそろかな。切れてるのもあるし」


 これがなければ始まらないので、今使っている資材や溶剤などをお金を払って購入した。

 お金を手に持って「入金」のボタンを押すとお金が消えてポイントがチャージされる、そういう仕組みだ。物をポイント化する場合も同じようだ。


 この家の2階ではキッチンや風呂やトイレで排水はできるけど、たとえば1階では廃液なども回収してくれる。これも画面をタッチすると処理をしてくれる。何よりもありがたい機能だ。ハンガーなどの場合はポイント化してくれる。エコ機能が満載で随分と現代的なスキルだなと思う。


 奮発して紙幣を2枚使ったので、200000ポイント。

 ここからあれやこれやの消耗品などで半分近く減った。気になるものもあったのでそれも買った。量が多いとやっぱり高くなっちゃうな。でも、必要経費だ。


 防犯レベルを1から2にするためには50000ポイントで上げられるので、念のためにこちらにも割り振った。見た目に変化はないけど、たぶん防犯レベルが上がったのだと信じたい。詳しい説明もあったけど、余裕のある時に読もう。

 ヨハンくんの話が真実だとしたら、魔物避けの効果が高まるということなのかなと思う。詳細な説明は後回しだが、店内で乱暴を働く人がいたら出禁にできるらしい。なんとも心強い。


「空間の拡張かぁ。100万ポイントはちょっとまだ無理だなあ。紙幣10枚か」


 店内も広げられるらしい。

 新しく機械を購入したら手狭になるので空間を広げないといけないが、これについては冒険するのは早いのでやめておく。どのくらい広くなるんだろう。

 でも、お金は貯めないとね。ポイントは40000ポイントくらいを残したままにした。



「それじゃあ、続きをしよっと」


 シミ抜き作業の続きだ。


 シミ抜きには大きく4つの作用を利用する。溶解作用、化学作用、酵素作用、潤滑作用である。実際にはいろいろと組み合わせていく。


 溶解作用は水や有機溶剤で水溶性や油脂、樹脂系の汚れを溶かして除去する。

 化学作用は薬品を使ってシミの性質を変化させる。

 酵素作用は凝固したタンパク質に分解酵素を作用させて水に溶ける汚れに変えて除去する。

 潤滑作用は固形石けんやグリセリンなどの潤滑剤を用いて微細な不溶性の汚れを除去する。

 

 この世界の汚れはまだわからないこともあるけれど、だいたいの汚れのパターンは事前の情報さえあれば対処できる可能性は高い。この世界の人たちも普通に汗はかくし、日本の人と同じように同じような部位を汚す。


 買い取った衣類の場合は難しいが、みんなの衣類についてはどういう汚れかを一つひとつ訊いていったのでそれに合わせた処理ができる。汚れよりはこの世界の生地の方が扱いが難しいなと思う。単純な水洗いや高温だと素材が駄目になってしまう危険性もある。



 こうして残りの衣類を仕上げて、時計を見ればもう22時になっている。


 2階に上がると、ゴボスさんが今度は見張り役のようだ。一応、毛布を渡した。良い感じに酔っ払ってるように見えるけど、見張りは大丈夫なんだろうか。

 

「みなさんの服、綺麗になりましたよ。明日の朝には着られます」


「本当? いやあ、どうも洗濯っていうのは苦手でね。ありがたいよ」


「苦手かもしれませんけど、清潔に保つのは大切なことですよ」


 ハンナさんたちが特別というわけではなく、やっぱり洗濯というのは一般的にそこまで馴染みがあるわけでもなさそうだ。毎回服を洗うということはない。

 町では共用の洗濯場があったが、そういうところで洗濯をするようだ。

 食器用洗剤はあったし、人間の皮膚に合う石けんもあったし、洗濯用の洗剤だってあった。国や地域によって異なる、そんなことがカールさんから借りた本には書いてあった。

 まあ、国や地域というよりは職業や本人の性格に左右されるように思える。ハンナさんもだけど、ヒューバードさんは、洗濯嫌いそうだな。


 公衆衛生に務める、これはクリーニング業に従事する人間には当たり前のことであり、だから店内も毎日できる限り綺麗に掃除をする。

 ここ数日はできなかったけど、明日の朝、馬が去ったらさささっと掃除をしたい。

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