第13話 スキルのレベルアップ

 馬車自体は店の前に置いて、貴重品や運搬物だけを持ってから2頭の馬を店内に入れた。馬の場所の下にはシートを敷いておいた。

 こんなこと、日本のお店でやったら苦情が絶対に来る。

 他の人たちには、まずは順番にシャワーを浴びてもらうことにした。


「道具ではないのか。こんな空間系のスキルが存在しているのは見たことはあったが、こんな感じなのか」


 カシムさんが目を丸くしている。そっか、こういうスキルは数が少ないんだっけな。よく見ると古い建物なんだけどね。宿屋とか鍛冶屋とかはあるらしいけど、クリーニング屋の内部は物珍しいだろうな。


(ああ、お掃除しないとな)


 みんな泥や埃まみれだし、馬が入って来たから独特の香りがする。マーサさんのところで買い取った衣類もまだクリーニングを終えていないので早めに処理をしておきたい。なんだったらみんなの服も綺麗にしたい。


「あのシャワーっていうのはいったいなんだい!?」


「水以外にもお湯を出せたりするんですよ」


 ハンナさんだけではなく、他の人たちもシャワーを満喫していたが、こんなことなら湯船に浸かってもらうことをしてもよかったかなと思う。

 ボディーソープや石けん、シャンプーなどは知っていたそうだ。そういう商品がハッバーナの町には売っていた。大衆浴場もあるらしい。

 でも、あまり日常的にお湯で身体を洗うことはないらしくって、みんな風呂場から出てきた時には肌の色が黒かったのにさっぱりとしていた。垢とかも溜まってるんだろうな。風呂場の掃除は念入りにしよう。


 全員分のバスタオルを用意して、着替えも用意した。すでにクリーニングをしたものをいくつか見繕って、みんなに選んでもらった。


 御者の二人、少年のケージくんと中年のゴボスさんは交替で馬と店の入り口を見張ってくれることになった。二人は親子だった。

 気さくな人たちで、ハンナさんたちとも見知った仲だったので、他のお客がいなくなったら話しかけてくれることが増えていった。


(そういえば、この状態でお店を収納しちゃったら中の人たちはどうなるんだろう?)


 変なことになっちゃうと困るのでそれは今はやめておこう。



 お夜食にはハッバーナの町で買い込んで冷凍庫に詰めていたものをレンジで解凍をして、それから調理をした。

 そんなに広いキッチンではないけれど、6人分くらいならなんとかなる。調味料なども日本のものに似ているのが町にあったので買い込んでいる。キリューさんが教えてくれた店の商品ばかりだ。


 みんなにはシャワーを浴びた順番に居間に移ってもらうことにした。ふわふわのバスタオルにも驚いていた。


「いやー、野宿かと思ってたけど、こんなに快適な場所があるとはなぁ」


 御者のゴボスさんが感嘆している。水洗トイレにもびっくりしたようだ。


「固有スキル?って言うんですかね、そんなスキルが私には備わっているらしいです。それ以上何かができるわけじゃないんですけどね」


「でも、なんというんでしょうか、聖域みたいな波動を感じますよ?」


 聖域って。話が大きいな。


「ヨハンくん、それは大げさだよ」


「いえ冗談ではなく本当に。この建物に近づかない魔物が多いんじゃないかと思います」


 防犯が機能しているってことかな。まだレベルは上げられるのだから、もっと強固なものにできるんだろうな。


「それにしても不思議な道具ばかりだな。この床もそうだし、その箱も何なんだ?」


 カシムさんが畳とテレビを不思議そうに眺めている。


「これはテレビと言って、なんていうんだろう、映像っていうのかな、絵を映すものなんです」


「ああ、なるほど」


 もちろん何の番組も映らない。けれど、祖父が一人で見ていたらしき時代劇のDVDなどがあったので、それを流したら結構喜んでもらえた。

 近所に昔たたんだレンタルショップがあって、そこの店長がお客様だったけど、レンタル落ちしたものを祖父がもらったものもある。邦画洋画の名作DVDもある。


 「こんな箱に人が入ってるのか」という面白い反応はなくて、ちょっと残念だ。

 音声の日本語が通じるんだな。でも、スタッフロールなどの日本語の文字は読めないようだ。

 私の場合、この世界の文字は読めるけど書けない。これは一から勉強しないといけない。


 2階では夕食の準備をして、町で買ったアルコール類や、祖父が買っていた焼酎なども出した。焼酎を私は呑めないので誰かに消費してもらった方がいい。


 別室には布団を敷いた。

 なんだか修学旅行とか合宿みたいだ。私の両親や私が祖父の家に泊まることもあったので、布団や枕の数はなんとかなった。ちょっと足りなかったけど、ひっつけば問題はないだろう。定期的に布団も干していたのは良かった。これからもいつも綺麗にしておこう。




「あれ、チカさん、大丈夫ですか?」


「あ、ううん、ケージくんずっとここで見張りでしょ? 私はこれからここで仕事をするから、上に行ってご飯を食べてきなよ」


「わかりました」


 ケージくんが上に行った。

 馬が2頭いるのが気になるけど、私はクリーニングをすることにした。落ち着いている馬なのだという。賢いんだろうな。私の仕事道具には君たちの毛で作ったブラシがあるんだぞって伝えたら怒るだろうか。


 ハンナさんたちが身につけていたものを優先して、落とせる汚れは落としたいなと思っている。

 ハンナさんたちのような職業の人は常に一張羅が多いらしい。いろいろな場所に行くらしいから服なども沢山持って動けない事情もあるようだ。それに装備品も揃えると高いから、いくつも買えるわけじゃない。


 さすがに下着についてはノータッチだけど、それ以外のものを洗えるだけ洗っておきたい。ケージくんやヨハンくんはさすがに下着については「自分で干します」と言っていた。クリーニングで使わない家用の洗濯機に入れてもらって、洗濯だけはしたので、下着については個人で干すようだ。

 

 ハンナさんたちはわりと新しい装備品だと言っていたから、汗が染みついていたり、油脂や皮脂などもついているんだろう。目立った泥などの汚れはない。


 明日には着られるようにしないといけないので、あまり丁寧な処理はできないけれど、目立つ汚れやシミについては取っておきたい。魔物の返り血なんてのもあったけど、ビビりながらシミ取りをした。

 凝固した血液は酵素で分解したいけど、魔物の血ってどうなるんだろうと思っていたけど、人間の血液と同じ処理でよいというのはハッバーナで冒険者の衣類を洗った時にわかったことだ。魔物の血は赤だけではないらしいけどね。


 汚れていたものが綺麗になっていくのはストレス解消になるよね。

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