強襲する狼
魔物は、多少個々の強さに差異はあれど、その種から大いに逸脱する魔物は殆どいない。
しかし、時々その魔物から逸脱する魔物が生まれる。
それが『
周りの環境、育ち、格上との戦闘。その様々な状況により通常から変質し
つまり、目の前にいるクソデカ狼も
「うぉぉぉぉぉ!?」
振り下ろされる爪を転げるようにして避ける。
すかさず、切りつけようと動こうとすると、尻尾が横なぎに振られ、俺はそれを床に張り付くようにして回避する。
1匹1匹は大した実力はないが、こいつは集団で狩りを行うため、油断していると後ろから噛み殺される。
そう、1匹なら大したことないんだ。目の前の狼が
「あれ、多分
言いながらこちらに走ってきた少女はグイッと俺の服の首元を引っ張り、無理矢理に体を仰け反らせる。
ブォンと、風を切る音がし、魔物の爪が眼前を通り過ぎる。
あ、あぶねぇ、立ち上がりかけてた体勢だったから咄嗟に回避出来ないで食らう所だった。
「悪い!助かった!」
礼をいいながら、魔物から距離をとる。
確か、単体で
体躯は何倍も大きく成長し、パワーもスピードも上がり、群れることをやめ、夜に潜むことをやめた孤高の狼。
隠し部屋とはいえ、こんなダンジョンでいていいレベルの魔物じゃない。
「それで、どうするんですか?」
空色の髪の少女は短剣の
「どうするもこうするも、あいつが強すぎる。俺らの実力じゃ、あいつの攻撃一発で致命傷だ」
「じゃあ、諦めて死ぬんですか?」
無表情でそう言う少女を俺は鼻で笑い飛ばす。
「はっ!まさか、こんなとこで死ねるかよ。俺がどうにかして隙を作るから、あんたは自分の最大の一撃をぶち込んでくれ。シンプルな作戦だろ?」
「……分かりました。でも、一人で大丈夫なんですか?」
「安心しろ、死なないように立ち回るのは得意なんだ」
刀を構えて、一歩前に出る。
「こいよ犬っころ。遊びの時間だ」
じっと動きを見つめ、腕の動きに合わせて刀を合わせる。
──ガギャギャギャギャギャ!!!
鍔迫りは一瞬、刀身と爪がぶつかり、削るような音を立てる。
「っもってぇな!クソが!」
真正面から攻撃を受けてもパワーで負けて吹き飛ばされるため、魔物の攻撃は受け流すか回避するしかない。
「────!?!?」
振り上げた刀は
──よし、このままならいける。
俺は確信して、一歩踏み出す。
その瞬間。
「ヷォ゙ォォォォォォォン!!!!」
ブルり、と毛を逆立てながら大きく震えた
「マジかよ、仲間を呼ぶ!?この魔物の性質上そんな事は……ってことは魔法か!」
鳴きながら飛びかかってきたを一刀で切り伏せながら、俺は声を荒げる。
幸い、一匹一匹は大した強さではなく、簡単に倒せる。だが、如何せん数が多すぎるし、何より──。
「ヷォ゙ォォォォォォォン!!」
「あぁぁぁぁぁ!!!」
叫びながらも狼たちの鋭利な爪を避け、弾き、時には相手を盾に使う。
しかし、数が数だ。致命傷に至る傷は負ってはいないが、捌ききれない敵の猛攻により、浅い切り傷が身体に刻まれていく。
そして、攻撃を防ぐ事に集中するあまり、本来、最も警戒しなければならない敵の姿を見失っていた。
「あっ、がぁっ!!?」
自信が作り出した大量の影の狼に紛れ、俺の近くまで来ていた
「ぐっ…うっ…」
咄嗟に後ろに下がれたから致命傷には至ってないものの、決して浅くはない傷をつけられ、血が流れる腹を抑える。
師匠と会った時といい、ダンジョンに入ると何かしら起こる呪いでもかかってんのか?
「にしても、こりゃ終わったな」
俺に恐怖を与えたいのか、奴はゆっくりと近づいてくる。
寝ころんだままの俺は、痛む身体を動かして上半身を起こし、上を見上げ、悠然と片手で口角の上がった口元を覆う。
「俺が、一人じゃなかったら…な」
視界の端の奥で、空色の髪が揺れるが見えた。
「や、ぁあああああああああああああああああああ!」
今まで気配を消して隠れていた空色髪の少女は、
「──────────!?!??」
痛みで甲高い声を上げる
集中が途切れたのか、魔力で生み出された狼の影は形を保てなくなり、そのまま霧散する。
しかし、倒れない。暴れまわっていた
まずいまずい!このままだと、やられる!
「ぐっ、う、おあっ」
動け、動け、ここで動けなきゃ、いつまで経っても、近づけない!
身体が上げる悲鳴を無視して、立ち上がる。どくどくと、傷口から血を流しながらも俺は
倒れそうになる身体を気合で鼓舞し、地面を蹴る。
「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
走る、身体中に感じる痛みも、流れる血も、全部無視してひた走る。
「これでっ!終わりだぁああああああああ!」
今にも、少女に振り落とされようとしている凶刃の爪を、その腕と首を切り落とした。
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