エンカウント、世界最強
『ダンジョン』とは、亀裂によって魔物が現れた時とほぼ同じに出現した空間のことを言う。
時間経過で勝手に閉じていく亀裂に対して、最奥にあるコアを破壊しない限り、永久的に残り続けるのがダンジョンだ。
ダンジョンは現在に至るまで弱いものから攻略不可能と言われているものまで、数多く発見されている。
そんな死の危険があるダンジョンに、なぜ人が集まるのかというと、金銀財宝や特殊な武具や魔法が眠っているからだ。
それ以外にも自分の力を試したくてダンジョンに行く者もそれなりにいる。
かく言う俺も、自分の力を試したくてダンジョンに来ていた。
─草原の地─。ここは、いわゆる初心者用のダンジョンで、出てくる魔物の強さも低級の魔物ばかりだ。
「ふっ─」
ダンジョンに行く前に購入した安物の剣を一閃。目の前にいる肌が緑色の魔物、ゴブリンの首を切り飛ばす。
「これで五体目、初めは危なかった場面もあったけど、今のところ問題はないな」
倒したゴブリンの魔石を回収しながら呟く。ゴブリンの動きは単調で、戦闘経験のない俺でもすぐに慣れて楽に倒せるようになった。
「このまま二層に行っても問題なさそうだな」
草原が広がる地にある場違いな階段。少し歩いた先に見える二層へと続く階段へと歩みを進めようとし─殺気─俺は咄嗟に身を翻して全力で後ろに飛んだ。
「うん、今のに反応できるのね」
「あんたは…」
「暇つぶしにここに来たら、まさかこんな原石に会えるなんて。人生なにが起きるか分からないものね?」
強さのレベルが違う。目の前に前に佇む女性を見て、俺はそう思った。
亜麻色の髪を靡かせて、静かに魔力を高めている。
俺にだけ向けられているはずの殺気は、周囲にまで影響を及ぼしており、近くにいた魔物達は一目散に逃げ出すか、気絶してしまっている。
「暇つぶしにしたってなんでこんな初心者御用達のダンジョンなんかに来てんですかね。ここは、あんたみたいな人が来るべきじゃないでしょ。ねぇ、世界最強?」
「ふーん、僕の事知ってるんだね。うん、僕が世界最強!ユーティルス・アルテ・ルシフル!」
天上天下唯我独尊、傲岸不遜、傍若無人。そして、世界最強。そんな言葉が似合うのが、カルメリア・アルテ・ユーティルスという人物だ。
自分の強さに絶対的な自信を持ち、世界最強の名に恥じない理不尽なまでの実力を兼ね備えている。
「それじゃあ、続きやろっか」
その言葉と共に、カルメリアの姿が消える。
また背後、いや、今度は上かっ!
「うおっ!?」
横に転がり、振り下ろされた剣を回避する。
まずいまずい!どうする!?あんな化け物相手どるなんて、命がいくつあっても足りねぇぞ!?
「その腰にぶら下げてる剣、構えなくていいの?じゃないと、死ぬよ」
構えて立ち向かっても結局死ぬだろ!ふざけんな!
「ちょ、ちょっと腰を落ち着かせて話しません?知的生命体同士、何事も対話から──」
まずっ──抜刀。陣展開、
ほぼ無意識の間で行われたこの動作は、結果的に俺の命を繋ぐことに成功した。
「うっそだろ、全力で身体強化して。
起動した壁をいとも容易くぶち破った彼女の剣を俺も剣を構えて迎え撃つ。
剣同士がぶつかり合い、派手な音を立てる。
「おっも、たすぎだろ!」
そんな華奢な体から、なんでそんな力が出るのかと冷や汗を出しながら、力では勝てないと思い、剣を滑らせる。
それに対してカルメリアは読んでいたのか、地面に剣を突き刺し、一回転。
「ガッ!?」
勢いよく振られた回し蹴りは、俺の腹に突き刺さり、ぶわっと体が宙を浮き、吹っ飛び、その勢いのまま壁に激突した。
「無理ゲーが、過ぎるぞ、はぁ…マジで」
おそらく、あの蹴りだけで、肋骨の何本か折れた。
剣を杖替わりにしながら、よろよろと立ち上がる。
「ふむ、僕の期待しすぎかな。その体じゃあ、もう立つのもやっとでしょ?」
「勝手にやってきて、勝手に期待すんなよな。こちとら、碌に戦闘経験もないど素人だぞ。あと、俺は負けてない」
俺がそういうと、カルメリアは怪訝そうな顔で見てくる。
「俺はまだ戦えるから負けてない」
「なら、もう一撃いれるね。迷惑かけたお詫びに、あとで治してあげるから」
カルメリアはそう言いながら、ゆっくりと歩いてくる。
俺は地面に刺していた剣を引き抜き、不敵に笑う。
「今回は負けない。まぁ、勝てもしないけどな。だから──」
数歩、後ろに下がる。すると地面から魔法陣が浮き上がった。
「──今回は引き分けにしようぜ?」
驚愕の表情をしているカルメリアに笑顔を向け、俺は光に包まれてダンジョンから姿を消した。
*******
「うっ、あ、あれ?ここどこだ」
目が覚めると、知らないところにいた。
いや、ここダンジョン近くの公園だ。
と、いうことは、俺────
「目、覚めたみたいだね。君、あの後気絶したんだよ。まだ戦えるなんて瘦せ我慢しちゃって。でもまぁ、よく考えたね。確かにダンジョンから出ていけば、一般人もいる場で剣なんて振り回せない。してやられたよ」
ちょっとまて、なんか柔らかい感触すると思ってたけど、これってまさか──
「あの、カルメリアさん」
「うん?どうしたんだい?」
「これ、なにしてんすか?」
「もちろん、膝枕だよ」
なるほど、膝枕。膝枕っこんな感じなんだ、なんというか…いいな、膝枕。
「ってちがう!」
勢いよく上半身をあげながら叫ぶ。
あぶない、膝枕の魔力に飲まれるところだった。
「あれ?体痛くない」
肋骨が何本か折れていたはずなのに、今は全く痛みを感じない。
「体の方は治癒しといたよ」
その声に反応して振り返ると、カルメリアが微笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
「あっ、そうなんすね。ありがとうございます。って、そうだ、あんた…なんで急に俺を襲ったんだ」
カルメリアを睨みつけながら問うと、彼女は楽しそうに体をゆらす。
「それはね、あの時にも言ってたけど。君が磨けば光る原石に見えたから。だから思わずやっちゃった。ごめんね?」
「…まぁ、別に死んでもないし、治療してもらったからいいですよ」
「ありがとう。それでね、一つ僕から提案があるんだけど、いいかな?」
「提案?なんですか?」
うんっ、と心に底から楽しそうな声でうなずいたカルメリアは、ベンチから立つと、夕日を背にして俺に向き直る。
「
「え、弟子?」
カルメリアから言った言葉に思わず聞き返してしまう。
なんていったって、彼女は世界最強。今まで誰かにちょっとしたアドバイスをしたことがあるのは聞いたことがあるが、弟子をつくったという話は聞いたことがない。
「うん、弟子。やっぱり、僕の目に狂いはなかったよ。君はもっと強くなれる。それこそいつか僕を超える程にね。それで、どう?僕の…いや、世界最強の弟子になってみないかい?」
こちらに手を差し伸べる、微笑んでいるカルメリア。
俺は、驚きで目を見開きながら、出されている手を見つめる。
「俺、もっと強くなりたいです。俺には目標があって、それに近づくためには力がいるんです。だから──」
俺は立ち上がり、カルメリアと目を合わせる。
「俺を強くしてください」
差し出された手を、強く握った。
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