開拓者ギルドの裏事情(前編)
薬屋開店まで、残り20日を切り。
マルサス(=俺)(解毒士)+リミヤ(錬金術師)+アーガス(護衛)による、ポーション用の素材調達は相変わらず順調だが、やはり、ポーション精製者が二人しかいないことを不安に思う俺。
その悩みを聞いて、開拓者ギルドの元受付嬢であるファシアさん(鑑定士スキル持ち)(酒好き)が店に連れてきたのは、赤い髪に黒縁眼鏡の、真面目そうだが、やや幼くも見える顔立ちの女性。
彼女の名は、リピン。
聞けば彼女は、開拓者ギルドの現受付嬢だという。
「開拓者ギルドの受付をしております、リピンと言います」
「あっ、よろしくお願いします。マルサスと言います」
丁寧に挨拶され、こちらも立ち上がり、礼を返す。
『でもどうして開拓者ギルドの人が?』
首を傾げる俺に、リピンさんを連れてきたファシアさんは言った。
「マルサスさん。ポーションの製造量不足の件ですが……手間と時間が最もかかるのは素材調達だ、とおっしゃっていましたよね?」
「ええ、そうですが」
「もし素材が大量に手に入るとしたら……精製者の数は変わらなくても、ポーションの製造に困らなくなると思いませんか?」
彼女の言葉に、俺は息をのむ。
『それってつまり……』
ファシアさんは、自信に満ちた声で言った。
「マルサスさん。いっそのこと、開拓者ギルドから素材を仕入れちゃいませんか?」
所属する商人ギルドに求人募集をかけているのだが、ポーション精製者が集まらない現状。
『さすがにポーションの生産役が2人だけでは、店を開けてからの在庫切れが不安だな……』
そう考えていた俺は、とにかく店で働いてくれる人をどう増やすかばかり考えていたのだが。
『素材を大量に持っているところと契約を結ぶ……その手があったか』
ファシアさんの提案を聞き、目からうろこが落ちる思いだった。
しかし、不安な点もぱっと2つ思い浮かぶ。
「ファシアさん。
確かに開拓者ギルドから素材を仕入れることができるなら、いつでも安定した素材の供給が見込めるでしょうし、それほど心強いことはないと思うのですが」
「ええ」
「すみません、詳しいことが分からないのでお尋ねするのですが……
商人ギルドに所属しながら他のギルドとの取引をするというのは、問題のないことなのでしょうか」
するとファシアさんが、リピンさんの方を見る。
リピンさんはコホンと咳払いし、口を開いた。
「問題ないかと思われます。
今回、開拓者ギルドからマルサスさんにご提案したいのは、『素材の一般購入』でございます。
当ギルドでは、所属する開拓者が現地から持ち帰った素材を買い取っているのですが、それらをどなたにでも購入していただけるよう、ギルドで販売しております。
これは開拓者ギルドに所属しない方にでもご利用していただけるサービスですので、ご安心ください」
「つまり……普通の店で、客として素材を購入するということと同じということですか?」
「左様でございます。ですから、異なるギルドに所属するからといって、遠慮される必要は全くありません。
あくまでマルサスさん一個人にギルド内で買い物をしていただくだけですし、角の立つようなことは何一つありません」
『なるほど……商人ギルドにいながら開拓者ギルドに加入するといった二重契約の話ではないようだ』
しかしそれだと、二つ目の不安がより気にかかる。
俺はリピンさんに続けて尋ねた。
「ありがとうございます、理解できました。
しかしその場合、素材の金額はどうなるのでしょう?
開拓者ギルドに所属し、大量に仕入れさせていただくといった契約を結ぶわけではないのですよね?
でしたら一つ一つの素材が、失礼ながらなかなかの金額になるのではないでしょうか?」
「その点ですが、ファシアと相談させていただきました」
リピンさんは待っていましたとばかりに、きびきびした口調で答えた。
ファシアさんの方を見ると、彼女も小さく頷き、微笑む。
どうやら、うまく交渉してくれたらしい。
リピンさんが、俺の前に1枚の羊皮紙を差し出した。
「ご入用の素材ですが、これくらいの価格でどうでしょうか」
俺は羊皮紙を受け取り、その内容を確認する。
そこに書かれているのは、錬金術師リミヤが必要とする素材、それから、俺が扱えるような毒草も十種類ほど。どうやらファシアさんが、必要なものを伝えてくれたらしい。
量と値段を確認する。最小単位で購入した時と、その5倍、10倍、50倍の量をまとめて買ったときの値段が書かれていた。
『なるほど……』
俺は一通り目を通し、言う。
「ぜひ取引をお願いします」
リピンさんの顔もぱっと明るくなった。
「良かったです。こちらこそ、ぜひよろしくお願いします」
彼女が差し出してきた手を、俺はそっと握った。
取引決定。
『これなら、万が一ポーションの在庫切れが起こったとしても、かなり柔軟に対応できそうだ……!』
話がまとまり、リピンさんを見送った後。
俺はファシアさんにお礼を言った。
「本当にありがとうございました……!」
まさか、こんな好条件の仕入れ先を見つけてくれるとは。
『道で酔っ払っているあなたを見かけたときには、こんな有能な方だなんて夢にも思いませんでした!』とは、もちろん言えない。
「雇っていただいているので、その分、働いただけですよ」と、ファシアさんは穏やかに微笑む。
「いやいや……」と俺は首を振る。ここまで具体的な解決策を用意してくれるなんて、明らかに店番として雇ったこと以上の働きだ。
俺は、渡された羊皮紙に目を落とした。
並んでいる価格は、もちろん自分たちで調達することに比べれば割高だ。
しかしどの素材も、ポーションを精製して売ることができれば、ちゃんと利益が出る価格に収まっている。
おそらく、そこまで分かった上で、ファシアさんはこの話を持ってきてくれたのだ。
だが改めてリストで確認すると、その値段に違和感を覚えてしまう。
「あの……開拓者ギルドって、もともとこんなに安く素材を販売しているんですか?
それとも、ファシアさんが交渉してくださって……?」
すると彼女は、笑って首を振った。
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