きっかけ

冒険者アーガスに怯える、錬金術師リミヤの様子に悩んでいた俺。


『このままだと、二人で素材調達に行ってもらうことは難しそうだ。

でも店を開けたら、俺は店番をしないといけないわけだし……』


そんな考え事をしながら、夜の王都を歩いていると。


薬屋の近くまで戻ってきたとき、路地に倒れている人を見かけた。


そして不用心に近づきかけて、警戒心を起こす。


「アンデッド……?」


しかし倒れていたのは、アンデッドではなかった。


「今、誰に……誰に、アンデッドって言ったのーー--!!!!」

「この見目麗しき乙女の、どこがアンデッドなのーー---!!!!」


そしてただの酔っ払いが、こちらめがけて飛びかかってきた。





と思ったら。


ビターン!


目の前で、勢いよく倒れるその人。



「だ、大丈夫ですか!」


アンデッドではないと分かり、俺は警戒を解いて駆け寄る。



「なんでそんな意地悪するのぉ……」


倒れているその人から、呟きが聞こえた。


「責任とりな、さい、よ……」



「えっと……」


倒れているその人の肩を、ぽんぽんと叩いた。


反応がない。


体を起こす。


目をつぶり、鼻からは「すー」と微かな音が。



『寝ちゃったよ、この人……』


初めてまともにその人の顔を見たが、落ち着きのある整った顔立ちの女性だった。


まさかつい先ほどまで、酔っぱらった挙句のけんか腰で飛びかかってきた人とは思えない。


俺はとりあえず、天を仰いだ。


「どうすればいいんだ、これ……」


夜の星は綺麗だったが、何も答えてはくれなかった。




そのまま外に寝かしておくわけにもいかないから、とりあえずその酔っ払いお姉さんを、自分の薬屋まで運ぶことにした。


この物件は、二階が居住スペースになっており、そこには俺が今つかっているベッドも置かれている。


だが、そこまで抱えていく自信はなかったので、申し訳ないがひとまず一階で寝てもらうことに。


毛布でくるみ、とりあえず彼女が起きるのを、俺はカウンターで待つことにした。



彼女が起きたら状況を説明しないといけないし、俺も起きていないと……と思ったのだが、今日も昼間は素材調達に行っていたわけで、次第に眠気が強くなってくる。


『だめだ。起きていられない。ちょっとだけ。ちょっとだけ仮眠を取ろう。この人も相当酔っぱらっていたから、すぐには起きないだろうし……』


と目をつぶり、カウンターに顔をふせた。





「あの……」


最初に聞こえてきたのは声だった。柔らかい、穏やかな声だった。


それから、遠慮がちに肩が揺さぶられる。


「すみません」


俺は目を開けて、顔を上げる。

両腕が痺れていた。


『あれ、俺、今何してたっけ……』


「!!」


目の前に、誰かがいた。

そりゃそうだ、今、声をかけられてたよな……?と俺は思い直す。



「えっと……」


俺はその人を見る。


入口横にある窓から入る光で、明るくなった店内。カウンター前に立っていたのは、おしとやかな雰囲気を持つ、見覚えのない女性だった。


お客さん、だろうか。



「あの、昨晩のこと……覚えてますか?」とその人。


『昨晩のこと……?』


俺の眉間に、自然としわが寄る。昨日の夜。何かしたっけな。



「……あっ」


俺は女性の顔を見て、ようやく思い出した。


するとその瞬間、彼女は勢いよく頭を下げてきた。


「ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした!!」




こうして俺はその女性――開拓者ギルドの(元)受付嬢ファシアと、知り合うことになった。

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