夜の王都へ

「こ、この通りですぅぅぅぅぅ、クビにしないでくださいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


泣きながら謝罪してきたリミヤを落ち着かせ、とにかく俺は、話を聞くことに。



「アーガスの何が苦手なの?」とストレートに尋ねる俺。


「とにかく怖いんです……」と、直球で返してくるリミヤ。


とにかく怖いんですか……。



「話してみればわかるけど、アーガスは信頼できる人だと思うよ。


確かに見た目はちょっと強面かもしれないけど。


でもちゃんとB級冒険者っていうギルドのお墨付きもあるんだし、そんなに怖がらなくても大丈夫じゃないかな」


「あ、頭ではわかってるんです、こっ、この人は大丈夫。


わっ、私たちを守ってくれる人だから、こ、怖い人じゃないからって……。


でっ、でも。かっ、体と心が震えちゃってぇぇぇぇぇぇ!!!!」


震えちゃうのかぁ。


まぁ誰しも苦手なことの一つや二つあるもんだし、仕事とはいえ無理強いはしたくない。


それに、二人ともせっかくこの店で働きたいって考えてくれたんだから、これくらいのことで契約をなしにするのもあんまりだ。



「分かった。無理に仲良くなれとは言わないよ。


でも、見た目だけの理由で避けられるんだったら、アーガスも悲しむと思う。


だから普通に接するくらいでいいから、リミヤもちょっと勇気を出して、頑張ってみてくれないかな」


「は、はいっ! も、もちろんです……」


「ちなみに、その……まだちょっと先の話なんだけど。


薬屋を開店してからね、アーガスとリミヤだけの二人だけで素材調達に行ってもらうっていうのは……」


ピタッと音が聞こえるくらい、リミヤの顔がかたまった。


俺は言葉を修正する。


「……おいおい考えるとして。


俺も一緒に行くんだったら、とりあえずは頑張れそう?」



リミヤの顔に時間が戻ってきた。


「は、はい!! マ、マルサスさんがいてくだされば、だっ、がっ、大丈夫です、頑張れます!!」


「分かった」


まだ開店予定日までには何日か猶予がある。何とかリミヤには、アーガスへの恐怖を克服してもらって……。





「無、無理だ……」


四回目の素材集めを終えた日の夜。


俺は薬屋で、一人頭を抱えていた。



素材調達の回数を重ねても、リミヤの様子に変化は見られない。


ポーションの素材となる薬草が群生しているスポットなどを見つけたとき、彼女はすごく嬉しそうに駆け寄って、採集する。


ユグラルの森はそう言う場所が至るところにあるから、彼女が楽しそうにしている場面は多くあるのだが。


しかしやはり、アーガスの周りには近づかない。


そして素材を見つけた時以外は、とにかく俺の後ろから離れない。


それとなく「じゃあ次の時は試しにアーガスと二人で……」と提案してみるが、その度に彼女が石化するので、話がそれ以上進められない。


多分、このまま回数を重ねたところで、リミヤの様子が変わることはないだろう。



「どうしようか……うーん。ちょっと、歩きながら考えよう」


俺は薬屋を出て、夜の王都に繰り出した。

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