収穫と課題

王都の北にある、ユグラルの森。


ポーションの素材となる薬草・毒草などは豊富にあるが、CやDといった中級クラスの魔物が出るため、俺とリミヤだけではどうしても踏み込めなかった場所だ。


しかし今、俺とリミヤは初めてその森で素材調達を行っている。


もちろんそれが可能になっているのは……先を行く、B級冒険者アーガスのおかげだ。




「ユグラルの森か……あそこだったら、ほとんど魔物に出くわさないな」と、行き先を決める話し合いのときに言っていたアーガス。


その言葉通り、森に入ってから随分と歩いたのに、まだ一度も魔物に出くわしてない。



『これくらい歩けば、魔物の数が極端に少ないロールの森でさえ、何らかの魔物の姿を見かけることがあるのに。


やっぱりアーガスのスキル……「威圧者」の力は、本物のようだ』


俺は迷いなく進んでいくアーガスの背中を見ながら、頼もしく思った。



『しかし問題は……』


後ろを振り返る。


まるで俺の影のようにぴったりと、背後にくっついてくる錬金術師の少女、リミヤ。


もちろん彼女が恐れているのは、いつ飛び出してくるか分からない厄介な魔物…………ではない。


先頭を行く仲間、アーガスである。



アーガスとの契約を交わしているときに、偶然、店に戻ってきたリミヤ。


(戻ってきた理由は、精製できる8つのポーションについての説明を書いて見せてくれたリストに、一部誤りがあったことというものだった。


しかしそれは、特に気にするほどのミスではなかった。)


そこで俺は彼女にアーガスを紹介し、『威圧者』についても説明した上で、今日の素材調達に臨んだわけだが。


リミヤは初対面から、ずっとこの調子だった。


アーガスとは会話するどころか、まともに目を合わせることもできず、ずっと俺の後ろに隠れている。



『店が始まってからは、俺は店番をしないといけないし、二人だけで素材調達に行ってもらおうと考えてたんだけど……この調子だと無理っぽいんだよなぁ』


俺は素材調達の間じゅう、ぐるぐると頭を悩ませ続けた。





「本当に、1回でこの額をもらっていいのか?」


薬屋まで戻ってきて、1日分の護衛報酬として事前に取り決めた金貨1枚を手渡すと、アーガスは眉間に皺を寄せて言った。



「もちろん。素材もどっさり調達できたしね」


俺の鞄の中には、50本分のポーションが出来上がっていた。


ロールの森では、どれだけ頑張っても1日20本が限界だったのに、今日は簡単に2.5倍のポーションが精製できた。


まさかこんな量になると思っていなかったので、50本しか薬瓶を持っていなかったのだが。


持っていく薬瓶の数を増やせば、あと2、30本は余裕で精製できそうだった。



こんな具合で俺一人でも十分元を取れる状態だったが、それに加えてリミヤの両肩に下げた素材回収袋もぱんぱんである。


金貨1枚なんて、すぐにおつりの来る出費だ。



「分かった。じゃあありがたくいただいておく」


アーガスはそう言って、金貨1枚を腰に下げた巾着に収めた。


「こちらこそありがとう。じゃあ次もよろしくね」


「ああ」


そう言って、アーガスは夕暮れの街を、帰って行った。




『収穫だけでいったら、予想以上なんだけど……』


俺はため息をつきつつ、薬屋の中に戻った。


「リミヤ」


俺が声をかけると、彼女はびくりと肩を震わせた。


そして目にもとまらぬ素早さで、亀のように地面に丸くなった。


「こ、この通りですぅぅぅぅぅ、クビにしないでくださいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」



『いや、しないけどさ……』


どうしたものかな、と、俺はぽりぽり頭を掻いた。






「アーガスの何が苦手なの?」


俺はリミヤを落ち着かせて、まずは話を聞いてみることにした。

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