ちぐとはぐ
契約を結びたいという意向を示してくれたスキンヘッドの冒険者、アーガス。
俺は彼と、細かい契約の条件について話し合うことにした。
「アーガスさんは冒険者ギルドに所属されていますよね?」
「ああそうだな。というか、敬語を使わなくていいぞ。名前にも『さん』をつけなくていい。
どうしてもというなら敬語のままで構わんが、冒険者同士だと基本そうだからな」
なんかついさっきも同じようなやりとりがあったな……と考えて、俺はリミヤのことを思い出す。
かたや小さな錬金術師の少女、かたや屈強なスキンヘッドの冒険者。だが意外にも、二人には似たところがあるのかもしれない。
「わかった、アーガス。それじゃあ敬語はなしで話させてもらうよ」
「ああ。これから一緒に仕事をする仲間に対して、敬語で話すなんて堅苦しいことしたくないからな」
なるほど、冒険者はそういう考え方なのか。
俺は頷く。
「それで、冒険者ギルドに所属してるって話だけど、俺もまずはギルドに出向いて許可を取った方がいいのかな?」
「許可とは?」
「アーガスと契約を結ぶための」
「ああ、そういうことか」
アーガスは大きな手で、自分の頭を撫でた。
「その必要はないな。
うちの冒険者ギルドでは、階級に応じて、与えられる個人の裁量権が増す仕組みになってるんだ。
これには幾つか理由があるんだが、たとえば、ランクの低い冒険者には色々制約を与えておかないと、よそで面倒事を抱え込む可能性が増える。
逆に高ランクの冒険者は、ある程度自由を与えても厄介事に巻き込まれないだろうし、むしろ自由に行動する特権を与えることによって、よそのギルドに引き抜かれないようにしたいという狙いがある。
俺はB級だが、C級以上はギルドを介さずに請け負った仕事について、ギルドへの報告義務が課されていないんだ」
「へぇ、そういう仕組みになってるんだ」
「ああ」
商人ギルドの場合、金を多く持っていることで明らかに職員の対応が変わった。
一方、冒険者ギルドの場合は、ランクが上がれば上がるほど待遇が良くなる、つまり「強さが物を言う」社会になっているらしい。
どちらのギルドも結局のところは、優秀な人材を放出したくないという点で共通しているようだが。
アーガスは続けて言った。
「無論、ギルド外で請け負った仕事はすべて自己責任になる。つまり揉め事が起こった場合には、自分で何とかしなくちゃならんわけだが……。
どうする?
もしマルサスが不安なら、冒険者ギルドを通して俺に仕事を依頼することもできる。
その分、ギルドに支払う金銭分で互いに損をすることにはなるだろうが、ギルドを挟んでおけばいざというときに仲裁に入ってもらうことができるぞ」
俺は迷った。冒険者と契約すること自体初めてだから、ギルドを介する方が無難なのは間違いない。だが。
『うーん。なんかアーガスとだったらそんなに変な問題が起こるようには思えないんだよなぁ……』
出会ってまだ間もないが、嘘をついたりズルをしたりする人間には見えない。
『せっかくこれから仲間になるんだし。その程度の信頼もできないなら契約するなって話だよな』
俺はとりあえず、自分の感覚と、アーガスその人を信じることにした。
「いや。直接、契約を結ぶ形にしよう。それでもいいかな?」
「ああ。俺はもちろん大歓迎だ。取り分も増えるしな」
アーガスは隠し立てすることなく、そう言った。
「わかった。じゃあ、具体的な報酬の話なんだけど……」
「ひっ!!」
俺は顔を上げた。アーガスも、何事かと声が聞こえた後ろを振り返る。
いつの間にか、薬屋の中にリミヤがいた。
『なんだろう、何かこの店に忘れ物でもしたのかな? でも丁度いいところに来た。アーガスのこと、紹介できる』
俺はそう思って、立ち上がり、リミヤに近づいた。
「リミヤ、紹介するよ。これから俺たちと働いてくれることになった、冒険者のアーガスだ。
アーガス。こっちは錬金術師のリミヤ」
アーガスも立ち上がり、リミヤに手を差し出した。
「冒険者のアーガスだ。よろしく頼む」
「……?」
二人の間に立っていた俺の袖を、リミヤが引っ張っている。
俺はよくわからないまま、彼女の前に立たされた。
それから彼女は、俺の後ろから声を発した。
「よ、よよ、よよよ、よっろしく、おねっ、お願い、し、します……」
アーガスの差し出した手をちょんと握ると、すぐにその手を引っ込めた。
えっと……。
『もしかしてこの二人。
相性……最悪……?』
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