仲間、二人目

冒険者パーティーから追放されたスキンヘッドの男を追いかけて。


俺は、酒場を飛び出した。



店の外で、左右の通りを見回す。


大きな背中はすぐに見つかった。

後ろからでも強い圧を感じる。


男が歩くと、ごく自然に人が避けていくのが分かった。



「あの!」


俺が呼び止めると、男はゆっくり振り返った。


上級ランクの魔物を前にしたら、こんな感覚になるだろうか。


全身がびりびり痺れるような迫力を、いざ対峙すると強く感じた。



俺は声を振り絞って言う。


「すみません。先ほどの酒場で近い席にいたのですが、あなた方の話を聞いてしまいました。


今からちょっとお話する時間を頂けませんか。あなたに頼みたい仕事があるのです」



男は、俺の顔をじっと見て話を聞いた。


そしておもむろに口を開いた。


「わかった」






俺は男を、薬屋に案内した。


「……ここは?」


興味深げに店内を見回す男。


これだけ強靭な体の持ち主であれば、普段、薬屋になど滅多に行かないのかもしれない。



「薬屋を開こうと思っているんです。


あっ、すみません。まだ名前も伝えていませんでしたね。


マルサスと言います。もともと、解毒ポーションの下請けをやっていたんですが、今はこの薬屋を開くための準備を進めています。


よろしくお願いします」


俺はぺこりと頭を下げる。



「B級冒険者のアーガスだ。こちらこそ、よろしく頼む。


仕事というのは?」


「ええ。ポーションを精製するための素材調達をしに森へ入りたいのですが、その時、アーガスさんに同行してもらいたいのです」



俺はアーガスさんに事情を話した。


自分と、雇った錬金術師がいるのだが、どちらも非戦闘職であるということ。


素材調達の効率を考えると北や東の森に足を踏み入れたいが、魔物との遭遇がリスクとしてあるため、自分たちだけでは踏み込めないこと。


偶然、酒場での話を聞き、力を借りたいと思って相談を持ちかけたということ。



「アーガスさんのスキルについて聞かせてもらったとき、もしあなたがいれば、自分達は安心して素材調達に向かえると思ったんです。


『近くにいるだけで魔物が逃げ出していく』なんて、こんなありがたいことはありませんから


でも……すみません、本当に。スキルのことなんかも、盗み聞きしてしまって……」



アーガスさんは黙っていた。


喜怒哀楽のどの感情も読み取れない。こちらを圧倒する存在感だけが持続的していた。


と思ったら、彼がフッと口もとを緩めた。


「酒場で話が聞こえてくることなんて、よくあることだ。気にする必要はない。


あいつらの声はでかかったからな。


俺としちゃあ、これでまた当分ろくな仕事にありつけなくなるかと思ったが、まさか追い出されるところを見た上で、仕事を持ちかけてくる奴がいるなんてな。


マルサスと言ったか。

変わってるな、あんた」


「そんなことないですよ。俺はただ話を聞いた上で、アーガスさんの力をお借りしたいと思っただけで」


「しかし、スキルについて聞いただけで、俺のことは何も知らないだろう。


普通、パーティーから追い出されるような冒険者がいたら、理由がなんであれ仕事を頼みたいとは思わなくなると思うが」



アーガスさんの言葉を受け、俺は首を傾げた。


「そうですかね?


あの方たちの様子を見た限りでは、あなたは人としてとても信頼されているように見えました。


それにこうして少しお話しさせてもらうだけでも、もしあなたに仕事を頼んだら、実力通りの仕事をしてくださるだろうとしか感じられません。


パーティーを外れて欲しいと言われたのだって、それはただあの方々が求めているものとあなたの特殊なスキルが合致しなかっただけですから。


マイナスになる印象は、何一つありませんでしたよ」



アーガスさんはじっと俺のことを見た。


そしてなんの前触れもなく、大きな口を開けて笑った。


あまりに急なことだったので、驚く。


「ああ、すまないな。


確かにあんたの言う通りだが、まさかそこまで理路整然と返されるとはな。


あんただったら、厄介なスキル持ちの俺でもいいように扱ってくれるかもしれん。


俺でよければ、あんたのもとで働かせてくれ」


アーガスさんはそう言って、分厚い手を差し出してきた。


「はい」


俺はその手を握った。




薬屋二人目の契約者は、B級冒険者アーガスに決定した。

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