救う意志
開け放たれた、冒険者ギルドの扉。
目の前に広がった光景に、思わず絶句する。
いつもなら屈強な男たち女たちであふれ、活気に満ちているはずの受付。
しかし今、その面影は全くない。
響き渡る絶叫。すすり泣き。罵声、怒声、うめき声。
騎士団長は口を開いた。
「昨日の深夜から朝にかけて、王都領内に大量のアンデッドが出現した。
国王はすぐに王都警報を鳴らし、外出禁止令と都市機能の停止を市民に通達した。
騎士団は総出で駆除にあたったが、アンデッドは次々に湧き現在も王都内を歩き回っている。
しかし先ほど騎士団内の有識者によってその原因が特定された」
騎士団長サラ=ラフィーネは、受付中に響く混乱に満ちた声にのまれることなく強い声で続けた。
「毒だ。王都に侵入したアンデッドは、歯に毒を持っている。
それも、噛んだ人間をアンデッドに変えてしまうという前代未聞の毒を。その毒のせいで、奴らの毒牙にかかった人間が、次から次へとアンデッドにされているんだ。
我々騎士団はアンデッドに噛まれた人間を『ゾンビ』と呼称し、彼らを救う手立てを探し求めた。
回復魔法、解呪魔法は一通り試したが効かなかった。当然解毒薬も。未知の毒であり、王都に出回っている通常の解毒薬、ポーションの類は一切効かなかった。
人間のアンデッド化を食い止める方法は今のところ、噛まれた箇所から直接毒を取り除くしか方法が発見されていない」
ギルドの受付で悲鳴を上げる人々。
何人かの冒険者に取り押さえられ、アンデッドに噛まれた場所を、えぐり取られたり、切り落とされたりしている。
回復魔法は、傷を塞ぐが万能ではない。切り落とした部位はどこまで再生することができるだろうか。
「そこで有識者が目を付けたのが、毒に特化したスキルである『解毒士』だ。
しかし王都のギルド登録を確認したところ、このスキルを現在保有しているのは君を含めて数人だ。現段階では……君しか招集できていない。
率直に聞こう。
マルサス。君のスキル『解毒士』は、この状況で力を発揮できそうか?」
騎士団長が、真っ直ぐに俺の目を見た。
俺の心臓は、胸の中で暴れ回っていた。
「できる、かどうかはわかりません。
でも……もしかしたら、力になれるかもしれない。やらせてください」
「分かった。
よろしく頼んだぞ」
サラの手が、力強く俺の肩を叩いた。
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