第10話

歯磨きしようと思って給湯室に行くと、大島先輩と一緒になった。


「昨日のギター弾いていらした方って、有名な方?」


なぜだか、大島先輩は壮太さんのことが気になったみたいだった。ひょっとして浮気って疑われてるのかな?


「いいえ。趣味でされているそうです。メジャーデビューも目指してないって言ってありましたけど」

「そう……」


 大島先輩は頬に掌を当てて「はて?」とでも言うような仕草をした。


「私、本当に浮気じゃないですからね?」


一応、もう一度はっきり言ってみる。大島先輩と要はまったくつながりはないけれど、どこでどう伝わってしまうか分かったもんじゃない。


「あ、違うの。それはちゃんと、そうだって思ってるんだけど……。あの方、どこかで見たことがあって」

「そうなんですか?西野壮太さんって言われるんですけど」

「西野壮太さん、ね。う~ん。誰かに似てるのかなぁ」


大島先輩は唸りながら、歯ブラシを口に含んだ。大島先輩のお知り合いなのかな?


「高校の同級生とかですか?」

「わふぁんない」

「大島先輩がわかんないなら私もわかんないですよー」


歯磨き粉を歯ブラシに出しながら、ゲラゲラと笑う。大島先輩が思い出せないってことは、やっぱり壮太さんは、そんなに有名じゃない人なのかなって思う。でもいいの。私は壮太さんの歌が好きだから。

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