第8話

三枝先輩と大島先輩は、たまにこうやって私をからかう。思い出すだけでも、恥ずかしい。


当時入社1年目で、男性社員だけではなく女性社員からもちやほやされていた。私はしっかりと天狗になっていた。ピノキオよりも鼻が伸びきっていたと思う。


私なら宮本課長と釣り合うと勘違いした私は、大島先輩から奪おうと卑怯な手を使ったのだ。結局、二人の愛の絆にはあっさり負けて、失恋をしたのは私だった。大島先輩にとって私はすごく嫌な存在だったはずなのに、今もこうして仲良くしてくださっている。だから、やっぱり私は完敗だなって思う。


「柚ちゃん、三浦先輩とは順調?」

「はい。昨日も一緒に食事しました」

「え!じゃあ、もしかして!」


すると突然、大島先輩が何かを閃いたような声を出した。


「あの人が“三浦要さん”?昨日、駅前の有料駐車場で一緒にいたよね?」


大島先輩は、要の顔を知らない。まだ要と会ったことがないのだ。


「駅前の有料駐車場?」

「うん。二十一時すぎくらいだったかな?ギター弾いてあったじゃない」


ギターと聞いて、私は一人だけぴんときた。


「違いますよ!あの方は、私が好きなシンガーソングライターさんです」

「え!なんだ!私てっきり!」


間違えて恥ずかしかったのか、大島先輩は両手で顔を覆った。こういう仕草が可愛い先輩なのだ。


「なになに柚ちゃん、浮気?」

「違いますってば~」

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