第6話

壮太さんの演奏が終わると、私ははちきれんばかりの拍手を送った。


「すごい!すごく素敵です。壮太さんの新曲ですか?」

「ありがとう。うん。人前で初めて弾いたよ」

「そんな貴重な機会を私にいただけるなんて」

「そんな大層なものじゃないよ」


ふにゃって崩れた表情で、楽しそうな壮太さん。私もつい、顔を綻ばせてしまう。自然と心が弾む。それから1時間くらい壮太さんの演奏を聞いていたら、眠たくなってきてしまった。


「……私、そろそろ帰ります」

「ああ。もうこんな時間だね」


腕時計を確認すると、22時をすぎていた。明日も仕事だから、帰らなくちゃ。


「それじゃあ、気をつけて帰ってね」

「はい。ありがとうございます」


借りていた椅子を畳んで、壮太さんにお返しする。


「じゃあまた」

「うん。本当に気をつけて帰ってね」

「大丈夫ですよ」


壮太さんはまだもう少し演奏をするみたいだ。


「またきますね」


笑顔で会釈をして、私は駅の方へと家路に着いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る