第5話
ブルーシートを敷いた上で、アウトドア用の小さな椅子に座ってギターを鳴らしているのは、
壮太さんのことを知ったのは、要と出会う少し前。うちの会社のOBや、うちの会社と取引のある方と三人で食事をした帰りのことだった。駅に向かおうと一人で歩いていたところに聞こえてきたのが、壮太さんの奏でる優しい音色だった。その時から私は、壮太さんのファンなのだ。
「はい。ギターの音が聴こえたんで、立ち寄ってみました。壮太さん、お疲れ様です」
「いつもありがとう。柚ちゃんだけだよ、立ち止まってくれるのは」
「みんな忙しいからですよ。でもそうすると、私がただの暇人みたいになっちゃいますけど」
「そんなことないでしょ。まあでも、趣味でやってるから、たくさんの人に聴かせるようなもんでもないんだけどね」
「そんなことないです。私は、壮太さんの優しい音楽、大好きです」
壮太さんの音楽に足を止める人はほとんどいない。だからすっかり壮太さんと顔見知りになってしまった。
「こんな時間まで残業?」
「今日は、彼氏と食事だったんですけど、彼氏が職場に呼び戻されちゃって」
「そっか。それは寂しいね」
「そうなんです」
不思議と、壮太さんにはなんでも話してしまうようになっていた。彼の醸し出す優しい空気は、その場を丸ごと癒してくれているような気がする。
「じゃあ一曲、プレゼントしよう。はい、良かったら座って」
「ありがとうございます」
壮太さんが差し出してくれたのは、もう一脚のアウトドア用の椅子。いつも貸してくれるのだ。私が椅子に座ったのを確認すると、壮太さんはコンコンコンとギターとボディを叩いてリズムを取ると、弦をピックでひっかく。そして、音が紡がれていく。
なんて音色だろう。優しくて、あたたかくて。壮太さんの人格が出ているような。この何とも言えない感覚が好きだなあって思う。
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