第30話

「ハッハッハッ!」


「クッ……小癪なッ!」


「当たらない……」

 

 スー姉とスーシア……二人は間違いなくこの世界でも最上位の存在だろう。

 しかし、それでもこの僕には全然敵わない。


「……さて、と」

 

 僕は元気いっぱいに笑いながら動かしていた足をピタリと止め、その場に立ち尽くす。


「「は?」」

 

 当然。

 動きを止めた僕にスー姉とスーシアの攻撃が直撃する。


「は、はぁッ!?」


「……うそ、でしょ」

 

 だが、二人の攻撃は僕に直撃しても一切ダメージを与えなかった。

 

「二人は成長していた。僕の成長以上に」

 

 正直に言って、スー姉もスーシアもここまで強くなるとは思わなかった。

 知人の成長に僕は監視をする中で満足感を覚えていた……だから、僕は機嫌よく二人を相手取り、そこそこ拮抗して戦っている風に見えるよう工夫した。 


「だが、二人では僕の足元も見えやしない」

 

 それでも二人では僕に勝てない。

 僕が何もしなくても、どれだけ二人の攻撃を食らっても僕は傷一つ負わない。負けるはずがないのだ。僕が。


「……クッ!」


「……そ、そんな」

 

 圧倒的な力の差に二人は一歩……また一歩と足を退かせ、額から汗を流す。


「……負けられないッ!負けられないのよォ!私はァ!人類のためにッ!お前のくだらない願いで私の祖国を潰されてたまるかァッ!!!」


「えぇ。そうね。私も同意よ。祖国に奉仕するものとして、ラインハルト公爵領を守るものとして、同じ血族として……あなたを殺すわ」

 

 足が退いた、恐怖に慄いた。

 しかし、それでも二人の心は死ななかった。二人の刃は決して折れることはなかった。

 素晴らしい覚悟だ……だが、そんなもので届くほど僕という壁を打ち破れない。

 二人が絶望的な戦いに挑み、そして散る。

 敗北が確定している戦いへと二人が挑もうとする……。



「退いて」

 

 

 そんなときだった。

 これまで沈黙を保ち続けていたリーナが口を開いたのは。


「すべてを終わらせられないから」

 

 リーナの体から魔力が吹き荒れ、いつの間にかその手には光り輝く聖剣が握られている。

 

「くくく……」

 

 リーナは一歩……また一歩と足を進め、僕の方へと近づいてくる。


「あっ……」


「……っ」

 

 リーナの声から、リーナの仕草から、リーナの何もかもから


「くくく……」


 あぁ……そうだ。そうなのだ。

 リーナは、リーナという刃は僕を殺すことすら出来るのだ。


 この世界の主人公がリュートだとしたら、そのメインヒロインはリーナであったのだろう。

 この狭い世界の中で……僕とロキが。リュートとリーナだけが次元の違う生物として君臨していた。


「今でも愛しているわ。アーク」


「そうか」


「だから……その愛ゆえに貴方を殺すわ」


「ククク……そうかッ!やってみるが良いッ!!!」


 一週間ほど何も食べず、何も飲まず、睡眠を一切取らず、自分の体を呪いで縛り付け、致死性の毒を飲んでまで強制的に弱体化させたこの身で僕は笑みを浮かべ、リーナを迎え撃った。

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