第25話

 突如現れた伝令の言葉。

 それを前に人も魔も動きを止め、戦闘音がピタリと止む。


「ふー。そうね」

 

 沈黙の後、スーシア・フォン・ラインハルトが口を開く。


「どう見てもこれはただの罠……だけど、どうやら君の報告には四天王並びに幹部も驚いているみたいだし。罠じゃないと判断するわ。私たちは急ぎ大陸へと帰還し、不死者討伐に当たることにしましょう」


「なッ!?正気か!?」

 

 スーシア・フォン・ラインハルトの決断に、スーシア・フォン・ベルコー二が反対の意を示し、叫ぶ。


「正気よ……襲っているのが不死者だとするなら、アークが関わっているはずよ。不死者を作り出すのはラインハルト家の十八番だもの」


「……ッ。あの、男が……」

 

 スーシア・フォン・ラインハルトの言葉に反応したのは四天王統括である魔族の男だった。


「あら?どうやら私の弟は随分と嫌われているみたいね」


 嫌悪感たっぷりの言葉を前にスーシア・フォン・ラインハルトは疑問を覚え、口を開く。 


「ふんッ。貴様はあれの姉か。であれば手綱くらい握っておいてくれ……あれのせいで、我らの前に魔王様が現れなくなった……あれが、魔王様を裏切るよう唆しただろうよ……くくく。忌々しい男よ」


「なんですって?」


「む?知らぬのか?あの男も魔王様も我らのもとにはいない。裏切っておるのよ」


「……ッ!第三、勢力……アークの目的は一体……ッ!?ほ、本当に大陸が滅亡している可能性があるわッ!今すぐ行きましょう!そこの伝令ッ!案内しなさいッ!」


 不死者が関わっている……なら、アークが関わっているであろうとスーシアは判断した。

 それでも大した被害は無いと思っていたのだ。

 

 不死者に意思はなく、創造主の命令に従わない。

 多くの不死者を作り、暴れさせれば魔族にも被害が出るだろうから、それを魔王は許さず、不死者による攻撃は小規模なものに過ぎないとスーシアは決めつけていた。

 

 だが、自分の弟は愛する女のため、魔族に裏切ったのだと、スーシアは思っていた……そう、勘違いしていたのだ。

 もし、アークが人類の味方でも、魔族の味方でもないのだとすれば……。

 

 彼女の頭の中にある地獄絵図。

 スーシアは言うことを聞かない数万、数十、数百万の不死者が世界を踏み鳴らしている様を想像し、顔を青ざめる。

 

「は、はいッ!……あ、あの自分も飛べるので離してもらえると」

 

 スーシアは伝令のことを掴み、空へと浮き上がる。


「却下よッ!さぁ、行くわよ!他もついてきなさい!」

 

 スーシアは戦闘に立ち、天空を駆け抜けた。

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