第18話
スーシア・フォン・ラインハルト。
スーシア・フォン・ベルコー二。
奇しくも同じ名前を持つ珍しい公爵家の女当主である二人は魔族たちの住まう島の地下に建てられ小屋の一室で二人。
向き合って座っていた。
「いつまで、兵糧攻めを続けるつもりだ?」
「そうね……どれくらいが良いと思うかしら?」
向かい合う彼女たちが話し合うのは魔族との戦いの方針である。
「私はもう既に十分だと考えているが……そもそもここで暮らしているのは戦闘のせの字も知らぬような一般市民たちだ。彼女らを殺し、苦しめるような策を取る必要性を感じん。どうせ、私たちが戦うべき魔族の士官たちにはさしたる影響も与えん」
「……そうかしらね」
ラインハルト公爵家の当主たるスーシア……かつて、マリーナを手にするために魔族を潰せないか単独で暗躍していたアークの姉たるスー姉はアークの残した魔族たちに関する資料を知っていた。
そこに残されてた資料には魔族は同族意識がとても強く、飢える一般人がいるのであれば魔族の支配者は迷うことなく己の食料を減らして分け与えるだろうと記されている。
資料を信じるのであれば一般人が飢えるような事態になればなるほど支配者たち……魔王軍の四天王や幹部などと言った彼らが飢え、弱体化することに繋がる。
「……」
だが、その資料はあくまで裏切り者であるアークが残した資料に他ならない。
それが事実である証拠などどこにもないのである。
「リーナちゃんの精神状態も良くないし……他のみんなの士気も下がる一方。多少のリスクを看過してでも仕掛けるべき、なのかもしれないのね……」
「これは戦争なのだ。リスクなど許容する他ないだろう」
「でも、私たちの敗北は人類の敗北に直結する」
「……だが、だからといっていつまでも怖気付いているわけにも行くまい」
「私は……必ず勝てる戦い以外はしない。必ず勝てるよう、戦いが始まる前にありとあらゆる準備を整える。でも、そんな状況を作れるだけの情報はない、か。秘密警察だー!とか言いながら人員を揃え、世界中で情報収集させる組織を作ったアークはやっぱり天才よね」
「あいつのッ!!!」
「何よ?」
「……あいつの話をするな」
「別に良いでしょ。あの子は今でも私の可愛い弟よ。あの子が人類を滅ぼすかもしれない……そんな危惧は遥か前から抱いていたものよ」
「む、昔から……」
「えぇ。そうよ。昔から……私はあの子がマリーナと出会うよりも前の幼児の段階でどこかそんな恐怖心を抱いていたのよ……だから、父上もあの子を遠ざけていたのよ。まぁ、結局あの子に食われていたけどね……」
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