第13話

「はぁ……?魔王城を襲撃するぅ?」


「あぁ。そうだとも。魔族は統率が取れていない烏合の衆。つまり、いつでも取れる雑兵だ。そんな雑兵を屈強な兵士に変えるのが指揮官の役目。雑兵を屈強な兵士へと変えられないよう指揮官を、上を、魔王城にいるであろう魔王を倒すのは実に理にかなった作戦だろう?」


「……え?私ってば魔王城に居ないよ?」

 

 魔王たるロキと死霊之王たる僕は魔王城ではなく、大陸の片隅にポツンと建てられた屋敷で暮らし、今もそこにいる。


「そんなことあいつらが知っているわけないだろ?」


「……破綻してない?」


「破綻しているよ?そもそもあいつらは僕との情報の中で圧倒的に敗北しているんだ。勝てるわけがないね。まぁ、この世界で情報戦の重要性を理解している人間は居ないけどね」

 

 情報収集?諜報活動?

 そんな面倒なことしていられるかッ!魔法ですべて吹き飛ばしてくれるゥ!を大真面目にやっているのがこの世界なのだ。

 遥かに進み……人を殺すための知識を何千年と積み重ねてきた現代地球の知識を持った僕に戦争で勝てるわけがない。


「情報戦……?」


「スー姉も優秀だけど、やっぱり姉弟なのか僕と思考回路が結構似ているんだよねぇ……だから手も読みやすい。読みやすい」

 

 スー姉はびっくりするくらい優秀だ。

 ちゃんと僕に監視される可能性を考慮して、自分たちの姿を隠すための工夫を幾つも施しているし、声だって遠くから聞かれないように対策していた。

 

 正直に言って彼女たちが魔王城に襲撃するって言うのもあくまで僕の予想でしかない……まぁ、間違えているわけないだろうけど。


「あのまま彼女たちに姿を隠すためのあれこれをさせていたら普通に見失わない?私たちの監視網はあくまで定点だし、数を優先して質を後回しにしちゃったせいで、全力で姿を隠そうとされたらどうしようもないよ」


「別に構わないさ。魔王城に行ってさえくれればそれで」


「くくく……良いだろう?お前が居なくなった後、残された魔族の精鋭たちと人類最高戦力が魔王城に揃う……人類社会のすべてを叩き潰してやるのに最高のタイミングじゃないか」

 

 僕が手に持っているコーヒーカップ。

 それになみなみと注がれた黒い液体に映る僕の相貌は禍々しく歪んでいた。

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