第10話

「……ぁ……ぁ……ぁ」


「ちょっとしくったかな?」

 

「あぁァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

 体を震わし、絶叫し、涙を流すリュートから膨大な魔力が漏れ出す。

 

 バツンッ

 

 僕とリュートの中にあった繋がりが解かれ、彼の中に植え付けた封印が消える。


「貴様は……ッ!貴様だけは許さないッ!!!」

 

 リンリーを殺したことが引き金となったか……それとも裏切る運命にある僕が前に立ったことが引き金となったか。

 まぁ、前者だろうな。

 どうやら世界の強制力たる白い糸はここをリュートの覚醒ポイントに選んだようだ。


「来いッ!聖剣エクスカリバーッ!!!」

 

 まるで。

 何年もともにした相棒を呼び出すように叫び、己の手元に光り輝く剣を出現させるリュートは僕へと剣を向ける。


「聖剣……ねぇ」


 いかにも勇者らしい能力じゃないか。


「俺にッ!あの裏切り者を倒す力をッ!!!リンリーの……ッ!リンリーの敵を討つ力を俺に寄越せッ!聖剣んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんッ!!!」


 勇者たるリュートの呼びかけに答えようと聖剣は強く輝き、純粋なエネルギーをリュートに与えていく。


「飲み込めぇッ!!!聖剣ッ!!!」

 

 ただのちょっとだけ強いだけだったはずの少年は。

 人類最強とも言えるような圧倒的な力を掲げ……そして、その背中より白銀の翼をはためかせる。


「派手だねぇ……」

 

 覚醒。

 聖剣の力を引き出し、天使のような翼が背中より生え、膨大な力をその身に宿し、僕を殺すために聖剣を頭上に掲げる。

 その姿はまさに勇者と呼ぶに相応しく、覚醒イベントに相応しき神々しさがある。



「覚醒するのが遅すぎたね」

 

 

 しかし、あまりにも遅すぎた。

 今のリュートの力であれば、彼に封印を施した当時の僕であれば殺せたかもしれない。

 だけどまた、僕も進化し続けている。

 リュートは死霊魔法を使いこなし、死者の力を調伏させた僕の敵ではなかった。



「カハッ!」


 

 リュートを生かそうとする星の意思を尽く叩き潰し、僕は聖剣を天へと掲げるリュートの心臓を貫いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る