第2話

 元々は人間だった栄養素に群がる羽虫の音と血を洗い流し続ける雨の音がハーモニーを奏でる中。


「リーナ様ッ!リーナ様ッ!リーナ様ッ!」

 

 血を流し、倒れるリーナを呼びかける熱心な声が響き渡る。

 

「ん……うぅ」


「り、リーナ様ッ!」

 

 その呼びかけもあってか、ゆっくりとリーナが目を覚まし、体を起こす。


「……あ、あれ?私は確か……アーク様に心臓を貫かれて……」


「そうだッ!そうですッ!アーク様がァ!!!我々を裏切っていたのですッ!!!」

 

 アーク。

 その名前を聞いた瞬間。

 リーナのことを必死に呼びかけていたただの一兵卒が叫ぶ。


「……え?」


「アーク様は死霊之王を名乗り、我々の部隊へと攻撃ッ!その攻撃により私を残して全滅!アーク様の元に現れた魔王と思われる少女と共に逃亡しましたッ!!!」


「……ッ!?ま、マリーナとッ!?」

 

 絶叫するようにつらつらと狂ったように起きたばかりのリーナへと情報を報告していた一兵卒。

 そんな一兵卒の言葉を聞き、その情報量の多さに困惑していたリーナは『魔王』……アークの婚約者であるマリーナを表す言葉を聞いて一気に意識が覚醒し、頭が急速に回り始める。


「はい!そうであります!」

 

「……そ、そんな……い、いえ!とりあえずはまず友軍と合流しましょう。あ、アーク様が裏切ったとなれば、その影響は大きいです」

 

 アーク。

 その存在が人類にもたらしてきたことは良いことも、悪いことも含めて多岐に渡る。

 彼が敵となった……その情報は最悪中の最悪であった。


「わ、私はどうすればよろしいでしょうか?私の部隊は全滅してしまったのですが……」


「そうですね。とりあえずは私と一緒に来てください。上層部にあなたが見たことを報告して貰う必要があります。その後、別の部隊へと配置致しますので、そこで頑張ってください」


「ハッ」


「では、行きますよ」


 公爵家当主たるリーナとただの一兵卒は行動を開始した。


 ■■■■■

 

 誰も気づけない。

 既にリーナ嬢の心臓が止まっていることに。

 それはアークの施した魔法故か、それともこの世界の強制力故か。


 彼女の死は、どこまで物語の本質に関わっていたのだろうか?

 

 それは転生者が前世でやったことのないゲームの世界に転生してしまったため、誰も知らないだろう。

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