第21話
無惨にも倒壊し、煙を上げている屋敷。
「……クソッ!貴様ッ!自分が何をしたのかわかっているのかッ!?」
そこにこもっていた使用人などは全員殺され、ベルコー二公爵家の血筋の人間は全員捕らえられ、スーシアの前に跪かされていた。
ベルコー二公爵家の現当主の嫡男である男がスーシアを睨みつけ、声を荒らげる。
「それはこちらのセリフだとも。我が兄」
「……貴様に兄と呼ばれる筋合いはないッ!既に平民へと堕ちた分際でッ!!!」
「そうか……だが、それは私としても同じことだ」
スーシアはそう吐き捨て、視線を自分の前で跪いている者たちから屋敷の周りを取り囲んでいる民衆たちへと視線を向ける。
「……久しぶり、であるな」
取り壊された屋敷を見る民衆の目には困惑と不安が浮かび上がっている。
そんな民衆たちへとスーシアは近づいていく。
「私を覚えている者はいるだろうか?」
スーシアより発せられる疑問。
それに答える者は誰もいない……民衆の中に彼女の姿を見てピンっと来るような人物はいなかったのだ。
長い間沈黙の続く……そんな中。
「……スーシア、様?」
誰かが呟いた。
その言葉は、民衆たちにとって絶大な意味を持っていた。
その名は、誰よりも元気で、誰よりも民衆の前にその姿を晒し、最も人気の持っていた少女の名である。
「えっ……?」
「あ、あの……?」
民衆たちの間にどよめきが走り、一気に騒がしくなる。
「あぁ。そうだッ!私こそがスーシア・フォン・ベルコー二ッ!!!」
スーシアはざわめく民衆たちの声をかき消すような大きな声を上げる。
「私は既に、政争で敗北し、平民となり……奴隷の立場へと降りるのを待つ身であった。しかしッ!決して看過することの出来ぬ事態がここで起きている……それを見過ごすことなど私には出来なかった……来いッ!」
スーシアの言葉を受け、ボロボロの人間を抱えた兵士たちが民衆の前に姿を表す。
兵士の一人が民衆の前で布団を敷き、その上に次々と兵士たちが歩くこともままならない人たちを寝かせていく。
「……ッ!?」
「リリアちゃんッ!?」
「なッ!?あ、アーサ、なのか……?」
その人たちを見た民衆たちが動揺……どころではなく、狂乱にも似たような状態となり、柵に覆われた
「彼ら、彼女らは我が領で起きた未だ未解決の大量虐殺事件の被害者の一部だ」
ベルコー二公爵家領で起きた未だ未解決の大量虐殺事件。
それは数年程も前に起きた一ヶ月間の間に多くの人の死体並びに多くの行方不明者が発見されたすべての事件を示す言葉である。
今、民衆の前にいるのは行方不明になった人たちであった。
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