第18話

「べ、ベルコー二公爵家の当主の座にスーシアを……既に堕ちたあの子をつかせる、と?」


「あぁ。そうだとも」

 

 ベルコー二派閥の有力貴族の当主を前に僕は頷く。


「な、何故でしょうか?」


「単純ですよ。僕はスーシアと仲が良いんです。ついでにリーナ嬢とも。魔族という難敵が人類の前にいるのです。三帝公爵家が一致団結している方が良いでしょう?」


「……」

 

 僕の言葉に有力貴族の当主は沈黙する。

 さっきの僕の発言は僕とリーナ嬢とスーシアの同盟が既に成立していることを意味する。

 当然……もう既にある程度自派閥内に僕やスーシアの手が回っている可能性にも思い至っているだろう。

 

 既にもうどうしようもないほどに自派閥の地盤をガチガチに固め、崩す隙などない僕とリーナ嬢を相手に、半壊する可能性すらあると言える自派閥で立ち向かうなど……皇帝の助力を得ても難しい。

 それも、目の前に座る聡明な男であればわかるはずだ。


「……スーシア閣下には昔より可能性を感じていたのです。現状の当主には不満もあります。当然助力させてもらいます」

 

 目の前の有力貴族の当主は項垂れ、そう言うことしか出来ない。


「おぉ!ベルコー二派閥において名高いあなたが僕の意見に賛同してくれるとは。どうやら僕は新しい友人を獲得することが出来たようだ。これからもよろしくおねがいしますよ」

 

 僕は自分の前に座る有力貴族の当主へと握手するため、手を差し伸ばす。


「えぇ。よろしくおねがいします」

 

 有力貴族の当主は僕の手を取り、引きつったような笑顔を浮かべる。


「それでは御機嫌よう。他にも自分が訪れなくてはならない者たちがいるので」


「は、ははは……実に頼もしい話ですな」


「良き友といつまでも良き友で居られることを願っていますよ。不用意な血は見たくありませんから」


 僕は有力貴族の当主のいる部屋を出る。

 商会、下級貴族……彼ら、彼女らの抱き込みは既に終わっている。

 今は上級貴族たちの抱き込みをするターンであった。

 

 ベルコー二公爵家の当主は脳筋でそこまで頭が良いとは言えないが、その筆頭補佐官は実に小狡い男で、西太后のように己の権力を守ることに関してだけは才能を持っているような男だ。

 彼は自分の元に届きうる牙が育っていることに気付いているだろう。

 僕とリーナ嬢が全力で情報が漏れないように最新の注意を払っていたとしても。


「どう転がるかねぇ」

 

 既に下準備は佳境に入っている。

 後は最後にどこまで上手くスーシアがことを転がせられるかである。

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