第6話

 フォレスト商会。

 かつて、僕が介入した結果、今や帝国随一の商会にまで成長した商会。

 そんな商会の本部へと僕はやってきていた。


「こちらで商会長がお待ちです」


「うむ」


 僕は受付の人に案内されて以前のフォレスト商会にあった緩さと暖かさはなくなり、皆が緊張感を持って仕事に取り組んでいる本部を歩き、目的地であった商会長室へとたどり着く。


「入るよ、リヴィア」

 

「どうぞ」


 僕は商会長室の扉を開け、その中へと入る。


「お、お久しぶりです……アーク様」

 

 扉を開けた瞬間。

 まず僕の目に入ってくるのがドアップのリヴィアの顔。

 どうやら彼女は扉の目の前で僕のことを待っていたようだった。


「やっほー」

 

「一体何のようですか?いや、アーク様でしたらいつでも来てくださって構わないんですけどね……えへへ。ずっと会いたかったです」

 

 一切の躊躇なく僕へと抱きついてきたリヴィアは僕へとその柔らかい体を押し付け……己も僕の匂いを熱心に嗅ぐ。


「ずっと……放置されてて、すっごく寂しかったんです……私、捨てられたんじゃないかと不安で不安で……」


 甘さと優しさ。

 その二つで回していたフォレスト商会に資本主義の残酷さを持ち込み、他人を食い物にしてでも金を稼ぐ……そんな大商会らしい大商会となったフォレスト商会。

 その運営をリヴィア一人に任せ、以前のような甘々運営をしないよう、周りの人間と関わらせずに書類とだけ睨み合うことを僕が強いた結果。

 

 僕の知らぬ間に彼女の中にあった優しさは歪み、唯一商会の運営で頼ることが許された僕に対して何故か依存するようになってしまったのだ。

 ……フォレスト商会を変えたのも、リヴィアに周りと関わらないよう強制させたのも僕だと言うのになんで彼女は僕に依存するのか……割とマジで理解出来ない。


「まぁ、一旦離れろ」

 

 以前までの僕ならなんでこんなことになったのかと困惑しながら赤面していたところだが、今の僕は違う。

 一つ大人となった僕には余裕があった。


「とりあえずは僕の要件からだ……いつまでも扉の前に居ないでさっさと部屋の方へと戻るよ」


「はい!」

 

 リヴィアは僕の言葉に素直に頷き、部屋の中へと戻っていく。

 そんなリヴィアの後を僕も追っていく。


 ちなみに僕が彼女を抱いたりする予定はない……好意を向けられるのは素直に嬉しいが、半世紀も処女をこじらせた人の初めての人になるとか今以上に面倒なことになりそうだし。

 前世で30を超えてもなお処女の人とは関係を持ってはいけないという教育を受けているのだ、僕は。

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