第31話

「遅いね」

 

 僕は自分の元へと振るわれる短剣を回避する。


「……キャッ」


 魔族が僕の方へと攻撃している間に背後を取り、魔族へと斬りかかったエレトリアに向かって後ろ蹴りを放つ。


「よっ」

 

 蹴るために足を上げた結果、片足立ちとなった魔族の足元を蹴り飛ばして転ばせようとする。


「『スライドッ!』」 

 

 補助役として僕とエレトリアの援護をしてくれているスーシアが相手を滑りやすくする魔法を発動させる。

 僕に蹴りに加えて、滑りやすくなる魔法までかけられた魔族はバランスを崩して地面へと倒れる。


「死ね」

 

 僕はそんな魔族の首元へと向かって剣を振り下ろした。


「……ぁ」

 

 僕の振るった刀は何の抵抗もなく魔族の首を落とした。


「ふー。これで終わりね」

 

 それを見たエレトリアがほっと一息つき、緊張感を霧散させる。

 

 その一瞬。

 

 首を落としたはずの魔族が立ち上がり、油断していたエレトリアへと襲いかかる。


「キャッ!?」


「まだッ!」


 僕は大慌てで地面を蹴り、魔族へとタックルする。

 抱き合う形となった僕と魔族はゴロゴロと転がり、エレトリアたちのもとから離れる。


「ぐっ!?」


 魔族の肘打ちが僕の腹に当たり、激痛が走る。

 そして、魔族の体から膨大な魔力が溢れ始める。

 


「……せめてお前だけでも」

 

 

 既に頭を失っているはずの魔族が僕に向かってそう告げる。


「……ッ」

 

 僕は一瞬の判断で魔法を時空間発動させ、魔族が発動させようとしていた魔法をズラし、魔法を無効化する。


「ばか、な……」


「ふー。どうやらギリギリ倒せたようだ」

 

 僕は深く息を吐き、立ち上がる。

 にしても、あの魔族が最後に使おうとしていた魔法は何だったのだろか。

 ゾッとするような『何か』を感じたのだけど。

 まぁ、既に終わったことだし

 

 多分僕が魔法を使ったことは他人にバレただろうが……バレたのはごく一部の一流。

 というか、先生くらいだろう。

 バレた相手が先生であればまだ良いかな。

 どうせ僕に何か言ってきたりなんて無理だろうし。


「というか、僕ってばなまっているのかなぁ。最後、全然魔法の発動に時間がかかったんだよなぁ」

 

 自身の実力の低下に嘆きつつ、僕は二人の元へと戻る。


「ご、ごめんね……最後の最後に油断しちゃって」


「全然。気にしなくて良いよ。なんとなかったからね。あ、スーシアも補助魔法ありがとね。助かった」


「私でも役に立てたのであればよかったよ……」


「いやぁー、めっちゃ役に立ったよ。マジで感謝ね……んー、見た感じ僕たちで最後っぽいかな?」

 

 辺りを見渡せば既に魔族の姿はない。

 魔族からの襲撃を誰一人として死者を出すことなく跳ね返すことになんとか成功したようだった。


「えぇ。そうみたいね」


「ふたりともお疲れ様。二人に傷がなくて良かったよ」


「えぇ」


「うん。お疲れ様」

 

 僕たち三人は無事に敵を撃退出来たことを称え合い、笑いあった。

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