第30話

「ハァッ!」

 

 僕は手に握っている剣を目の前にいる魔族へと振り下ろす。


「……ぁ」

 

 僕の振り下ろした剣はきれいに魔族の首を落とす。


「ふー。次は……」

 

 現在、学園は魔族からの全面攻撃を受けていた。

 今のところはそこまで強い魔族は居なく、誰一人として犠牲者を出すことなく済んでいる。


「既に数は少ない、か。これは僕が本気を出すまでもないかな」

 

 襲撃してきた魔族の壊滅まで後少し。

 これならば僕が公爵家当主として前に立ち、戦うまでもないだろう。


「よっと」

 

 僕は地面を蹴り、魔族相手に苦戦している少年の元へと向かう。


「加勢します」


「ぐっ……あ、ありがたい!」

 

 彼も押され気味だっただけで、問題なく魔族と戦えていた。

 そんな状態の中、タイマンで簡単に魔族を殺せるであろう僕が加勢すれば決着がつくのは一瞬だった。


「これで終わりだッ!」


「ぐふっ」

 

 魔族が僕に気を取れている隙に少年が魔族の心臓へと剣を突き刺す。


「お、おのれ……」

 

 魔族は口から血を流して倒れる。


「終わり、ですね」


「そのようだね。お手伝い感謝するよ」


「いえ、貴族様のお役に立てたのであれば光栄です。それでは、自分はこれで失礼します」

 

 僕は加勢した少年のもとからから離れ、別の人の元へと向かう。


「んっ……?」

 

 何故か。

 僕の視線が少し離れたところで震えて一連の戦いを見ているスーシアの方へと固定される。


「……ッ!?待って!?」

 

 そして、スーシアの元へと近づく影の薄い魔族がいることに気づき、大慌てで彼女の元へと向かう。


「危ないッ!」

 

「キャッ!?」


 僕は今まさに殺されそうになっていたスーシアの肩を掴んでこちらへと引き寄せて庇う。


「ぐっ……」

 

 なんとか彼女を庇うことに成功したが、その代わりとして僕の腕が軽く斬られる。


「……間に合うか」

 

 スーシアを殺そうとしていた影の薄い魔族。

 ボロボロのローブを身にまとい、長く歪な禍々しい短剣を持った顔のわからない影のような魔族。


「……ふー」

 

 今回襲撃してきた魔族の誰よりも強く、次元が一つ違うような相手を前に僕は深く息を吐く。

 ……力をセーブした状態の僕が勝てる相手か?


「私も力を貸すわよ」

 

 影の薄い魔族と睨み合っていた僕の元に加勢としてエレトリアが駆けつけてくる。


「助かる」


「さぁ、平民三人組の力を魔族へと見せてやるわよ!」


「……わ、私を入れないで?」

 

 僕の腕の中で震えているスーシアが不満げに声を上げる。


「……あなたはいつまでそこにいるつもりなの?さっさと退きなさいよ」

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