第29話

「ぐっ……も、申し訳ございません……ま、おうさ、ま……」

 

 僕に心臓を貫かれた男は口から血を流し、ゆっくりとその体を倒す。


「ふぅー。なんとかなったな」


「えぇ。そうね」

 

 魔王軍の幹部と名乗り、僕たちへと襲いかかってきた土竜の魔族はあっさりと倒された。

 というかこいつ、魔王軍の幹部とか名乗っていたけど、絶対に魔王軍の幹部じゃないだろ。

 少し前に僕が魔王軍へとちょっかいかけたときには幹部としてこいつは居なかった。


「これが魔王軍の幹部?思ったよりも弱いのね」


「……どうだが。この程度のやつにリュートが何も出来ずに敗北したとは思えないんだけどね。もっと強いやつはいくらでもいるだろう」

 

 正直に言って僕はここで平民として遊ぶ最後になるだろうと覚悟していたくらいだ。

 魔王軍幹部は縛りプレイをして勝てるような相手ではない。


「……私、巻き込まえたのだけど」

 

 僕とエレトリアが魔王軍の幹部を名乗る土竜と戦っているのを後ろから眺めていたスーシアが僕たちに向かって不満たっぷりに告げる。


「ふっ。やはりあいつはものを見る目があるな。僕たち三人を最大の驚異と判断するとは」


「えぇ。そうね。名もわからぬ驚異こそが本物の驚異。素晴らしい考えだわ。惜しむらくは彼の考えに周りが同意しなかったのか、彼一人で私たちのもとに来てしまったことね」


「……勝手に私を含まないで?」


「何を言っているの?あいつは平民って言ったんだよ?スーシアも間違いなく含まれるに決まっているじゃないか」


「えぇ。そうよ……あなただって私たちと同じでしょ?」


「本当にそう思っているのであれば私の方を見てほしいのだけど……」


「「……」」

 

 僕とエレトリアは共に目を背け、沈黙する。


「さ、さっきから戦闘音が遠くから聞こえるし、僕たちの元以外にも魔族が現れたかもしれない!もしそうであれば早く加勢してあげないと」


「そうね!」

 

「ちょっと!?私を無視しないで!?」


「僕たちが友達であるスーシアを置いていくわけないだろ!?共に加勢しに行くぞ!」


「え?」


「私たち平民組の力を見せてあげるわよ!」

 

 僕とエレトリアは強引にスーシアも連れてこの場から意気揚々と飛び出した。

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