第20話

 僕たちがやってきた訓練場。

 そこには既に多くの貴族の子供たちがワイワイガヤガヤと楽しそうに談笑していた。


「は、早く端っこの方にいかないと……」


 そんな中、いそいそとスーシアが端っこの方へと向かって歩き出す。

 なんというか……平民という立場の低さに同情を感じざるを得ない光景を前になんとも言えない気持ちになりながら彼女のあとについていく。


「ん?」

 

 今、スーシアについて歩いていた僕とすれ違った人から何か……そう、どこか『特別』な力を感じた僕は思わず足を止め、振り返ってしまう。

 そこにいるのは少女にからかわれて困ったような表情を浮かべている少年。

 彼は僕に気づくことなく少女と歩いている。


「何をしているの!?」


 特別な力を持った少年に気を取られ、足を止めてしまっていた僕を責めるようにスーシアは小さな声で怒鳴りつけてくる。


「あっ、ごめん」

 

 僕は小さく謝罪の言葉を口にし、彼女の言葉の後に続いていく。


 ……さっきのは誰だ?

 僕に見覚えのない相手……ということは少なくとも次期当主候補でもなければ、公爵家の子供でもないし、きっと無名の人間だろう。

 

 何が特別なのか……言語化するのが難しいが、はっきりと本能で特別であると僕が判断出来る力を持った少年が無名だった……?

 今度、公爵家当主として彼に会ってみても良いかもしれない。


「……うぅ。人が多い」

 

 多くの貴族の子供たちのいる訓練場で、貴族に対して強い恐怖を抱いているっぽいスーシアは訓練場の端っこで唸っている。


「こんな様子で授業なんて受けられるのか」


「私は無理に金を賭ける」


「僕も同じく無理な方にお金賭ける」


「ひどい!?というか、それじゃあ賭けになってない!」


「ん?スーシアは賭けるから」


「何も問題ないわ。賭けは成立しているわ」


「勝手に参加させないで!?それにするなら私だって無理な方に賭けるわ」


「それ、自分で言ってて悲しくない?」


「悲しいわよ!」

 

 僕の言葉にスーシアは涙目でそう告げた。

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