第16話

 僕の変装。

 かつらやコンタクトのようなもの、化粧を使った変装術に声変え、気配の変化、ちょっとした仕草の変化など、僕の持っている技能をフル活用した僕の変装を見抜ける人はそうそういないだろう。


「じゃあ、僕は一年で教室が違うから、ここで」


「うん……ちゃんと授業を受けるんだよ?」


「もちろん、善処するよ」


「よろしい。じゃあ、初めての授業頑張ってね」


「ん。じゃあね」

 

 マリアと一緒に学園へとやってきた僕はクラスの違うマリアと別れ、一年生のクラスへと向かう。

 今年度の一年生の人数は例年よりも多い406人。

 一つの教室に入る生徒の数が最大で30人。一クラス29人のクラスが14つ出来る計算となっている。

 学園では特定のクラスが決まっていないが、朝のHRなどもあるため、各々生徒が好きな数の教室に入って朝のHRと帰りのHRを過ごすことになる。

 ちなみに数字が若い教室ほど権力者が多くなっている。


「ふんふんふーん」

 

 一年次のクラスが並ぶフロアにやってきた僕は1の掲げられた教室を無視、2と掲げられた教室も無視……どんどんと進み、一番高い数字である14クラスの教室へと入る。


「……やっぱり早かったよ」

 

 14クラスの教室にはたった一人の少女しかいない。

 どう考えてもマリアの家を出たタイミングが早すぎた。

 

「おはよう」

 

 僕は教室に唯一いる少女へと話しかける。


「ひゃい!?あっ……お、おはようございますぅ」

 

 僕に話しかけられた少女は大げさに驚き、深々と頭を下げる。


「同級生なんだからそんな肩苦しくなくて良いよ」


「い、いえ……私は平民ですので」


「僕も同じようなもんだから気にしなくていいよ」

 

 この国だと僕は公爵家当主だが、他国にいけばそこの国の貴族ではない。

 つまり、平民!つまり、僕も平民と同じようなものであるッ!

 異論は断じて認めない。


「あ、なんだ。同じ平民なんだ!よろしくね!」

 

 僕が平民だとわかった途端、少女の態度が軟化する。

 ……この子、僕が公爵家当主だと知ったらどんな反応をするだろうか?

 若干の興味も湧いてきたが、ぐっとこらえる。


「うん。よろしく。僕の名前はアルト。君の名前は?」

 

 サラリと当たり前のように偽名を名乗る。

 別に偽名を名乗っても何かから罰せられたりはしない。


「私の名前はスーシア。仲良くしてくれると嬉しいわ」


「もちろん……この学園は偉い人が多いからね。肩身の狭い思いをしそうだしね」

 

「そうね……一緒に頑張っていきましょ!」


「うん」

 

 僕はスーシアを騙していることに対して罪悪感を覚えながらも彼女の言葉に笑顔で頷いた。

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