第13話  

 入学式。

 公爵家当主という立場は絶対的で、僕がどんな学校生活を送っていようが、基本的には周りを黙らせられる。

 しかし、流石に入学式はちゃんと公爵家当主として登場するように言われてしまった……皇帝陛下から。

 いくら僕でも皇帝陛下直々の要請を蹴ることなんて出来るはずがない。

 なので、泣く泣く僕はマリア先輩の一友人ではなく、公爵家当主アーク・フォン・ラインハルトとして学園に来ていた。


「ふむ……」

 

 僕の代には公爵令嬢だったり、次期公爵家当主だったり、第三皇子だったり…… 有力な子供がたくさんいるのだが、その中でも権力としては現公爵家当主である僕が飛びぬけて高かった。

 皇子の権力は現公爵家当主よりも遥かに劣る。

 公爵家当主の上など皇帝陛下くらいなもので、皇太子であっても公爵家当主と同格である。


「お久しぶりです。アーク閣下」 

 

 入学式の最前列に並べられている高そうな椅子に座り……マリアの家にある椅子との座り心地の違いに驚いた僕に声がかけられる。


「おー。これはリーナ嬢。お久しぶりですね」

 

 僕に話しかけてきた少女、リーナ・フォン・ラヴァニア。

 ラヴァニア公爵家の次女として生を受けた少女である。

 黄金のような金髪に、宝石のような碧い瞳が特徴的な美少女で、僕の同い年とは思えないくらいにはナイスバディをしている。

 

 そんな彼女は僕と年齢が同じなこともあり、僕の最有力婚約者候補だった。

 色々あり、僕の婚約者からは外れたのだが、婚約者候補だったこともあり、幼少期にはちょいちょい会っていたのだ。


「マリーナのことは残念でしたね……彼女は、とてもいい子だと思っていましたのに」


「……えぇ。そうですね。マリーナは公爵家当主の座に座る僕の隣に立ち、支えてくれると信じれる素敵な女性でしたのに……」

 

 今、僕に婚約者は居なく……また、リーナ嬢にも婚約者がいない。

 なんともまぁ……興味深い偶然だった。


「お隣、失礼いたしますね?」


「えぇ。もちろんどうぞ」

 

 リーナ嬢は僕の隣の席へと腰を下ろす。


「そろそろ入学式が始まりますね」


「えぇ、そうですね」


「既に公爵家当主としてその敏腕を振るっておられるアーク様であれば学園に通うのが無駄だと思ってしまったりしませんか?」


「正直なことを言うとそうですね……学園のために当主代行を立てる必要もありましたし。学園に通うのが理由で当主の代行を立てるのは歴史上で自分だけだと思いますよ」


「ふふふ。えぇ……間違いなくそうでしょうね」

 

 式が始まるまで、僕とリーナ嬢は穏やかな雰囲気で言葉を交わし合う。

 最前列……その中央に腰を下ろしている僕とリーナ嬢の空いている隣には誰も座らず、一つあけられている。

 皇子ですら開けている……詰めて良いんだよ?

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