第10話
帝都の一角にある貴族は住んでいるとは思えないほどのぼろい宿屋。
「お邪魔しまーす」
マリアの住む宿屋へとやってきた僕は元気よく声を張り上げる。
「や、やっぱり公爵家当主様をお迎えするにはふさわしくない部屋で……」
元気な僕とは対照的に顔を青ざめているマリアは声を震わせながら僕に訴えかけてくる。
……野宿よりはどんな場所でもいいと思うんだけどね。
「まったく……そんなくだらないことに固執しているようじゃマリアもダメだよ?」
「く、くだらない……?全然くだらなくないと思うんだけど……」
「僕がくだらないと言えばくだらないんだよ!良いかい?玉座とは王の座る場のことを言うんだよ?王が座ればたとえ拷問椅子でも玉座……公爵家の当主たる僕がそこに住んでいるのであればどんなところであっても公爵邸となるのだよ?」
「そ、それは無理やりな論理な気がぁ……」
「良いのさ。良いのさ。僕が気にしないと言っているのだからマリアも気にする必要はないんだよ!……ふむふむ。キッチンがあって、ちゃんとリビングと寝室は別で部屋も一つある。僕が居候しても最低限許されるような家にはなっているかな?」
マリアの宿屋がワンルームであることだけを危惧していたのが、ちゃんと部屋が複数個あり、僕が居座る部屋も用意出来そうだった。
「全然足りないと思うんだけど……私の使っているベッドなんかじゃ
「ん?ベッドなんか借りないよ?布団買うまではとりあえず床で寝ているから良いよ?」
「ふぁ!?そんなこと許されるわけ!?」
「僕は許すと言っているんだけど?布団を買う金も必要だし、僕が居候させてもらう以上、最低限食費くらいはちゃんと払わないとね?ふふふ……たかが数年で世界有数の大富豪へと登り詰めた僕の商売センスを見せてやろう……ッ!」
「ベッドを!ちゃんとベッドを使ってください……ッ!地べたなんかに寝させられないんだけど!?」
「ふっ……僕の下につくということはこういうことにも慣れなきゃダメなんだよ?僕とか肉体スペック高いし、地べたでも平気だから」
僕は自分の言葉に納得せず、抗議を続けるマリアの言葉を無視して僕は窓の方へと向かう。
窓から見える落ち行く日の光は実にきれいだった。
「公爵なんてつまんない立場なんて願い下げだよ……僕は出来れば特別扱いのない、ただの一学生として学園生活を送りたいんだよ」
かつて、僕の隣にはマリーナが居た。
でも、今の僕には誰もいない。
たった一人……孤独に頂点で立ち尽くすというのは辛く、実につまらないものだった。
「ふふふ……これからよろしくね。マリア」
少し、マリーナと名前の似ている少女マリアへと僕は笑みを浮かべた。
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