第6話

「そんな大人数で少女を取り囲んで何をしているんだ!」

 

 僕は揉めていたところに割り込んで入り、声を上げる。


「え?」

 

「……ぁ?」

 

 少女の前に立った僕を見て彼女に迫っていた男たちが怪訝そうな表情を浮かべる。

 ……少女に絡んでいる男たちの中心にいるちょっと太り気味の少年に彼の取り巻きと思われる五人の少年。

 うーん。全員誰かわからない。

 会ったことがない子なのかな……後ろにいる少女も普通にわからない。


「お前、誰の前に立っているのかわかっているのか?」


「知らないし、興味もない」

 

 僕はこちらを睨みつけてくる太った少年に対して毅然とした態度で言い切る。


「あ、あなた……」

 

 僕の後ろにいる少女がおずおずと僕の方に話しかけてくるが、それを無視する。


「……ッ!?な、な……俺はレイユール伯爵家の三男だぞ!!!下級貴族のガキが話しかけるなど許されない相手だぞッ!」

 

 レイユール伯爵家。

 あそこの家の子供なのね……当主と嫡男には会ったことあるけど、三男は知らなかったな。


「学園の制服を着ている以上、貴族の格は関係ない。平等な関係であるはずだけど?」

 

 一応学園だとすべての人が平等であるというルールになっている。


「アハハ!リュークさん!こいつ頭のおかしなこと言い出しましたよ!そんなルールなんてまともに機能しているわけないのにな!」


「そうだな!まったくだ!お前、俺が実家の方に声をかければ簡単にお前の家を叩き潰せるんだぞ?ん?」

 

 煽るように僕へと顔を近づけ、告げる太った少年。


「あ、あなた……彼を煽ることはないわ……私は大丈夫だから。れ、レイユール伯爵家は苛烈で……ほ、本当にあなたの家が潰されちゃわ!」

 

 顔を青ざめている少女が僕に向かってそう訴えかける。

 

「そうだぞ。お前の家を潰すことくらい簡単だ!うん。まぁ、俺は寛大だから、今ここで謝るのであれば許してあげなくもないがな!」


「ほら!彼もそう言っていることだし!」

 

 少女ってばいつの間にか僕の味方じゃなくなってない?

 心配してくれているんだろうけど。


「潰せるもんなら潰してみろよ」

 

 一度、ちらりと少女の方へと視線を投げかけた僕は再度視線を太った少年の方に向けて毅然と言い放つ。


「なッ!?」


「は、はぁ?」

 

 少女は僕の言葉に驚き、僕の返答を一切予想していなかったであろう太った少年は思わず間抜けな言葉を口にしてしまう。


「ラインハルト公爵家」

 

 僕は自分の頭につけていたかつらを取り、懐からラインハルト公爵家の家紋が描かれた扇子を取り出して太った少年の首元へと突きつける。


「自分の家を借金地獄へと落とした相手の家の当主の顔くらい覚えていたらどうだ……?レイユール伯爵家の三男坊君?」


「……え?」


「公爵家当主に対して喧嘩を売ったんだ……自分がどうなるか、わかっているよね?」

 

 首元に扇子を突き付けられた太った少年の顔は見る見るうちに青ざめていった。

 

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