第4話

 私、スーシア・フォン・ラインハルトの人生が明確に狂いだしたのは数年前……父と長男と長女が三男に殺されてからだ。

 長男であるユーラス兄上は優秀な妹、弟を前にひねくれちゃっていたり、リリーシャ姉上は自身が当主になれることを夢見てユーラス兄上にちょっかいをかけて、ギスギスしていたり。

 当主の座を巡ってギスギスしていたところもあるが、それでも全体的な兄弟、姉妹仲は良好だった。

 

 だからこそ、アークが父上とユーラス兄上とリリーシャ姉上を殺したということを聞いたときは頭が真っ白になった。

 兄弟姉妹の中でアークと一番仲良かったのが私で……だからこそ、アークの異常性も誰よりも理解していた。

 

 他人に対して愛情を見せることの少ないアークが当主になるため、他の三人を殺した。

 私は、そう思った。思ってしまった。

 

 だからこそ、アークが許せなくて……彼が当主の座につくのを座視していられなくて、強引にでも領地の方に戻ろうと苦心し……そんな間に私の生活もいつの間にか崩れていた。

 私を嵌めたとしか思えないタイミングで私の嫁ぎ先が税収の改ざんなどの不正、死霊魔法の研究をしていたという事実など多くの罪が白日の元に晒され、私の知らぬ間に自分の異国での結婚生活が崩れていた。

 

 そして、私はラインハルト公爵家もまた死霊魔法の研究をしていたことが原因で、嫁ぎ先の家に協力して死霊魔法の研究を行っていたとの疑いをかけられて軟禁状態。

 アークに助けられるまでずっと軟禁されているような状態にあった。


「絶対に、暴いて見せる」

 

 アークに助けられて故郷たるラインハルト公爵領に戻ってきた私はすべての騒動がアークによる自作自演であるという証拠を掴むと私は決心していた。

 きっと、アークによる領地運営は酷いものだと勝手に私は思っていたのだ。


「……なに、これ」

 

 だが、そんな私はアークの代行として当主の責務に取り組み始めた初日で絶望していた。


「完璧すぎじゃ……わ、私なんて要らないのでは……」

 

 アークの当主としての執行能力の高さは圧倒的で、私が代行としていなくとも領地運営に問題がないようなシステムが構築されていたし、アークが当主となってからの数年で経済状況も右肩上がり。

 どれだけアークが優秀であったが、その数値を見て理解させられる。


「何の意味、が……」

 

 私は当然当主になるためのまともな教育を受けていないし、他の兄弟姉妹も同様だろう。

 アーク以外に今、ラインライト公爵家内で領地運営出来る人がいるのだろうか?


「……そもそも私じゃ崩せるわけない、か」

 

 私は代行初日で格の違いを見せつけられ、牙を完全にへし折られたのだった。

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