第3話

「んっ。これでとりあえず引き継ぎは問題ないかな……?」

 

 僕がラインハルト公爵家当主の座についてから数年の月日が経過した。

 父上から特に引き継ぎも教育もなく、一人きりですべてを始める領地運営になったが、それでも自身の天才性故に大した苦労もなく領地運営を行えていた。


「……学園行くの面倒だなぁ。現役公爵家当主としてバリバリ活躍している僕が今更何を勉強すると言うんだよ」

 

 すべての王侯貴族の子供は12歳になったら学園に通う義務がある。

 たとえ僕が国家内で絶大な権力を持っている存在だとしても抗うことの出来ないこの国にある絶対のルールである。

 そんな学園への入学まで僕は後僅か。

 ラインハルト公爵領から離れ、学園のある王都にまで僕は向かい、そこで数年を過ごさなくてはならないのだ。

 

 ……国力の増強、甘やかされるだけで育つ貴族の駄目息子・駄目娘の根絶、徳川幕府の参勤交代のような人質制度、貴族の子供への王権教育、子供を王権に逆らえるような圧倒的な強さを持つ存在にするため、禁術などで改造してないかの確認。

 様々な目的の元、この学園制度があるのを理解しているが……実際に教育を受ける側に立つと面倒でしかない。

 

「来たわよ……アーク」

 

 執務室の扉が開かれ、一人の美しい女性が中へと入ってくる。


「あぁ、待っていたよ?スー姉。スー姉が呼びかけに答えてくれて良かったよ。ほんと」


「……別にあなたのためじゃないわ。領民、家のそこは勘違いしないでよね?」


 スーシア・フォン・ラインハルト。

 別の家に嫁いでいたラインハルト公爵家の次女であり、僕が学園に行っている間、公爵家当主不在にしているわけにもいかないので、公爵家当主代理として働いてもらうために遠方から呼びつけた妙齢の女性である。


 彼女は別の国のとある一家に正妻として嫁いでいたのだが、その家が色々な不正の記録や禁止されている魔法の研究を行っていることが国のトップにバレ、大した力も持っていなかったその家はあっさりと取り潰し。

 ラインハルト公爵家の次女が取り潰された家の嫡男とずっと嫁いでいるわけにも行かず、離婚。

 スー姉は別の国の地でフリーの状態となっていたのだ。


 フリーになったことで、暇していた彼女に僕が声をかけて、ラインハルト公爵家の方に戻ってきてもらっているのだ。

 僕が学園に行ったときに公爵家当主代理を勤めてもらうために。

 

「はいはい、わかっているよ」

 

 敵意むき出しで告げられるスー姉の言葉に僕は頷く。


「じゃあ、僕が学園に行っている間、この家をよろしくね?」


「えぇ。任せなさい……私が必ず、成し遂げて見せるんだから」


「そんな気張らなく良いけどね。どうせ大した仕事はないから」

 

 僕はやる気に漲らせているスー姉に苦笑し、そう話した。

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