第1話

「うぅぅぅぅぅぅ」

 

 僕は一人、ラインハルト公爵邸でお酒を飲んで黄昏れていた。


「まりーなぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ」


 いつも僕の隣に居てくれていた婚約者であるマリーナが居なくなってしまったことに僕は咽び泣く。


「誰だよぉ、転生したことで感情バグって悲しみとか怒りとか感じなくなったとか言っていたやつぅ……普通にあるじゃないかぁ」

 

 異世界へと転生した僕の精神性だったり、はかなり前世の時からかなり変わっている。

 前世の僕はいくら未来の知識があるからと言って世界の金融を支配出来るだけの頭脳なんて当然持っていないし、戦闘に関する才能ももちろんない。

 人の死体なんか見た日には胃の中のものを吐き出して

 

 だが、今世を生きる僕は世界のすべてを手に入れられるのではないかと思ってしまうほどに天才だし、人の死体を見ても何も思わないだが、平気で殺す事ができる。

 

 だからこそ、僕という人間は確実に転生したことで歪み……その影響で僕はなにかに対して悲しんだり、ショックを受けたり威う出来なくなっていると思ったのだ。


「……クソッタレめ」

 

 もし……僕に悲しめる心があるのであれば、前世の両親や友達にもう二度と会えないと言う事実を前にショックを受け、悲しんで当然。

 だけど、今の僕はもう会えない前世のみんなに対して何も思わない。

 悲しいとも、本当に……何も思えないのだ。だから僕はずっと自分には何かについて悲しむ

 自分の前世をすべて否定され、勝手に自分の思っていることを『誰』かに操られているみたいで良い気分には当然ならない。


「んで……ちゃんと悲しめるんだよ、僕は。なんで泣けるんだよ……ふざけんな、ほんと、ふざけんなよ、クソ……ッ」

 

 僕は自分の中にある不満をぶつぶつと


「というか魔王ってなんだよ……あれはおとぎ話の存在だろ。確かに魔王が生まれたとかそういう情報も流れていたけどさぁ。ホントだと思わないじゃん」

 

 魔王。

 人間が住めないような過酷な環境下で生きている魔族たちを統べし王。

 おとぎ話の中で人間社会に魔族を引き連れて攻め込んできた……そんな存在だ。

 そいつがなんで普通に居て、僕の婚約者になっているんだよ。意味がわからない。許せない。


「うぅ……マリーナァ……あぁー。魔族皆殺しにしてマリーナの手足を引き継ぎって監禁しようかなぁ……」

 

 あー、結構良いかもしれないなぁ。

 子供の頃からずっと目指していた世界征服を今、別にやろうと思えないし……うん。ありかも。


「アーク様」

 

 僕がそんな物騒なことを考えていると、ラインハルト家に仕える執事である男に声をかけられる。


「……ぁ?」

 

「リーサ商会の商会長がお越しです」


「ん。わかった。今行く」

 

 僕は酒瓶をテーブルの上に置き、ゆっくりと立ち上がった。

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