第33話

「マリーナ?」

 

 僕は何が起きているのか、理解できず、ただ彼女の名前を呆然と呼ぶことしかできない。


「対人戦に特化しているアークと戦いたくなんて無いんだけどなぁ」

 

 マリーナは手元にある短剣で遊びながら僕の方へと近づいてくる。

 その所作から漏れ出る殺意を前に混乱する意思とは相反して僕の体は戦闘態勢を取る。


「……それ以上、進むな。これ以上は本当に……敵と判断するしかなくなる」


「敵だよ?私は」

 

 僕の言葉に対して。

 返ってくる返答は実に短く、残酷だった。


「……」

 

 その一言で僕の頭が一瞬で真っ白になってしまう。


「あぁ……改めて自己紹介しなきゃだよね。私の名前はロキ。魔の世界を統べし王。魔王よ」


「……マリーナはどうした?」


「そんな娘、最初からいないわ」


「……」

 

 僕はマリーナのその言葉に固まり、何も言えなくなる。


「……死ねないよ、まだ」

 

 そんな僕を狙ってあっさりと僕の背後を取ったマリーナの短剣による一振りを僕は刀で受けて弾き飛ばす。


「だから、死んで」

 

 僕の切り替えは早かった。

 短剣を吹き飛ばされ、隙を晒すマリーナへと刀を振り下ろす。


「ちぃッ!」

 

 マリーナの口から飛んでくる数本の針を見て僕はマリーナへと伸ばしていた刀の軌道を変えてそれらを防ぐ。


「シッ」

 

 僕は異空間より幾つもの短剣を取り出してそれらを一切の迷いなくマリーナへと投げつけていく。

 当然投擲した短剣には僕が転移するための魔法陣が刻み込まれている。


「ふーっ」

 

 僕の投げた短剣の数々はすべてマリーナの口から溢れ出す業火によってすべて溶かされて無くなる。


「あなたの転移能力は厄介だけど……こっちへと飛んでくる飛び道具をすべて焼き尽くしちゃえば簡単に対処出来る。こんなところで大きなものを打ち出すわけにもいかないしね?」


「……」

 

 僕はマリーナの言葉に対して無言で返し、その返答の代わりとしてマリーナとの距離を詰める。


「まだ私のほうが上」

 

 僕の振るう刀とマリーナの振るう短剣がぶつかり合い、火花を散らす。

 彼女の言う通り……近距離戦において、僕はまだまだマリーナに及ぶような次元に立てていなかった。


「くっ……」

  

 僕の持っている数々の初見殺しはすべてただの初見殺しだ。

 種さえわかれば案外簡単に対策出来るようなものばかりで、僕の手を知り尽くしてるマリーナはすべて完璧な対策をして僕の前に立っていた。


「……はぁ……はぁ……はぁ」


「ふふふ。思ったよりも耐えるのね?」

 

 そんなマリーナを相手にしている僕が絶体絶命の危機に陥るのは必然であるとも言えた。

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