第32話

「ふぅー」

 

 父上、ユーラス兄上、リリーシャ姉上。

 現当主、次期当主筆頭候補、次期当主次点候補の三人が死んだという事実は僕がラインハルト公爵家当主がなる上で大きなプラスになるだろう。

 

 というか、僕が今すぐに当主へとなるのであればこの三人の排除は必須だった。

 そして、この三人さえ排除出来ればラインハルト公爵家当主という座に僕が一気に近づく。

 次男は現在他国に留学中で、次女は既に別の家へと嫁いでいて、三女は僕よりも年下でとある事情によって親戚の家で成長中。

 全員僕がラインハルト公爵家当主になるのを止められるような状況にはなかった。


「既に種は撒いてある。後は回収するだけ……消化試合だな」

 

 父上がリリーシャ姉上に施した死霊魔法の情報をすべて把握しきった僕はそのままリリーシャ姉上に刻み込まれている死霊魔法を解除し、情報を消す。

 

「……流石に全部残すわけにはいかないよね」

 

 死霊魔法の研究成果に関して言えば本当に父上が死霊魔法を行っていた証拠として残しておく必要があるが、流石にこんな物騒極まりない死霊魔法の研究結果をそのままにしておくわけにはいかない。

 面倒なことではあるが、これらの実験結果を悪用出来ないよう本当に大事なところの情報を消去していく。

 

「よし……これでとり────ッ!?」

 

 その一瞬。

 僕が気づけたのはただの偶然だった。


「ちょいっそ!?」


 背後から感じたなんとなくの違和感は……殺意へと変わり、僕が身を翻してその場を跳躍する。


「何者ッ!?」

 

 僕は刀を構え、つい先程まで僕が立っていた場所へと視線を送る。

 そこにあったひとつの人影へと向けた僕の瞳は。


「……え?」

 

 信じられない……信じたくもないものを映していた。


「マリー、ナ?」

 

 僕は自分の背後に立つ……自分の背後で短剣を持って立っていたマリーナを見て困惑する。

 何故ここに来る前に別れたはずの彼女がここに立っていて、短剣を持っていて、僕に殺意を向けた存在が立っている場所に立っているのか、わからない。


「あぁー、殺せなかった」

 

 殺意に染まった……マリーナの声。


「……何、が?え?」

 

 僕の予想だにしていなかった現状を前にして僕は固まり、困惑の声を漏らした。

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