第17話
魔導帝国テュフォンの南方の大部分を統治している三帝公爵家が一つ、ベルコー二公爵家。
彼ら、彼女らは領地が強力な魔物である竜種が多く住まう竜々峰と接するが故にその一族の者すべてが屈強な戦士である。
「ベルコー二公爵家に挨拶にはいかないのですか?」
「いかないよ。別に公的な用事があるわけでもないし」
ベルコー二公爵家の立つ場こそ最前線。
その信念の元に造られた城塞都市、都市の中央に威を構えるベルコー二公爵邸を擁する城塞都市スレイヤー。
僕はその城塞都市スレイヤーの一角に存在するベイリー商会のお邪魔になっていた。
「た、たとえ公的な用事がなくとも挨拶に行くべきだと思われるのですが……」
長旅に疲れ、ベイリー商会の持つ建物の一室で休んでいる僕とマリーナのそばには一人の少女が立っていた。
彼女はリカーネ・ベイリー。
ベイリー商会の商会長の次女である少女だ。
「あー。でもなぁ……うーん。ラインハルト公爵家が飛び抜けていると言うのもわかるし、挨拶した方が良いのは確かなんだけど。僕は一応三男だし、あまり重要なポジションでもないから公的な用事もなしに会いに行く必要性はないんだよね」
「混沌竜の討伐は十分に用事足り得ると思うのですが……」
「勝手に僕が竜と戦い、勝つだけだよ。何も問題ないよね?」
「そ、そうなのですが……」
そう。
別に僕が挨拶もなしにベルコー二公爵領に滞在し、混沌竜を倒したとしても特に問題があるわけではない。
非常識な奴だとは思われるが。
「別に挨拶するくらいは良いのではないでしょうか?」
「いや、あいつら暑苦しくて嫌いなんだよね。だから、嫌なの」
僕が挨拶したくない理由は唯一。
彼らがそんなに好きではない。
ただそれだけである。
「……そ、そんな理由……」
「そんなにも暑苦しいのですか?」
「以前僕がこの街に来たときはずっと令嬢に付け回され、バトルをふっかけられ続けた」
「なるほど。やめておきましょう……絶対に面倒なことになりますね」
「でしょ?だからやーよ。別に僕たちのことは気にしなくて良いよ」
「そ、そういうわけにもいかないのですが……」
「あぁ、ごめん。言い方が軽かったね。これは命令。君が否と告げることは許されていないよ」
「しょ、承知いたしました」
僕の言葉にリカーネくんが頷く。
「じゃあね」
「お邪魔いたしました」
僕は笑顔で部屋から出ていくリカーネくんを見送った。
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