第15話

 己を侮辱した女、リリーシャ姉上のことをにらみつけるユーラス兄上。


「あらあら……そんなに睨みつけてどうしたの?随分と余裕がないのね」

 

 そんなユーラス兄上を更に煽っていくリリーシャ姉上。


「……」

 

 物凄く物騒な二人の間に挟まれた早くここから立ち去りたい僕。


「貴様……この私に喧嘩を売っているのか?」


「そんな、売っているわけないじゃない。ただ事実を言ったまでよ?」


「そうか。どうやら貴様は私に叩き潰されたいようだな」


「姉弟対決にお父様の力は持ち込めないわよ?……個人の力で私に勝てるかしら?」

 

 ユーラス兄上は次期当主の最有力候補と言うことで、自身の力で0から勢力を大きくするというよりも、父上と共に元よりあるラインハルト公爵家傘下の商会を使って色々しているので、父上の手を一切借りれない姉弟対決だと、かなり不利となる。


「……私が当主となったとき、覚えておけ」


「あら、怖い。当主が己の家族に喧嘩を売るなんてしちゃだめよ?あなたやっぱり当主の器ではないんじゃない?……別の子が当主になった方が良いんじゃないかしら?」


「……僕は当主になんてなる気ありませんよ」


 こちらへと視線を送ってくるリリーシャ姉上に僕はそう答える。


「ふん……そのガキがなれるわけないだろう」


「何を言っているのかしら?この子は父上に混沌竜の討伐を任され、それが成功したら当主にしても良いと言われているのよ?」


「なッ!?」


「違いますよ。父上は元より僕にクリアさせるつもりなんてないですよ……いつかは出来ると思っているでしょうが、少なくとも兄上が次期当主であると宣言されるまでは帰ってこさせないつもりですよ」

 

「そんなはずはないでしょう……学園だってあるのだから」

 

 すべての貴族は12歳になると帝国にある学園に通うことになる。

 だが、それは義務ではない。


「僕が学園に行く必要なんてないでしょう。父上は僕を貴族世界から遠ざけたいんですよ」


 僕は肩をすくめながらそう話す。

 悲しいことに僕の言っていることはすべて真実だろう。父上は僕を恐れ、貴族社会から遠ざけようとしている。


「そ、そうなの……?」


「そうですよ。というか、普通に考えてですよ?混沌竜の討伐なんて不可能に決まっているじゃないですか。僕はユーラス兄上やリリーシャ姉上よりも弱いんですよ?いくらマリーナがいるからと言って無理ですよ。次期当主はユーラス兄上ですよ」


「お、おう……そうだな」

 

 僕の言葉にユーラス兄上は頷く。


「ということです。マリーナが絶対に討伐させます!って意気込んでいるので僕はもう行きますね。ふふふ……絶対に無理なことでも諦めず頑張るマリーナ。最高に可愛いと思いません?」

 

「そうね……」


「確かにあの娘は気品高いよな」

 

 他人を褒めることがまずないユーラス兄上がマリーナのことを褒める。


「……ユーラス兄上。マリーナを奪ったら必ず潰すので」

 

 マリーナを褒めたユーラス兄上を僕は睨みつける。

 NTRなんて絶対に許さない……もし、マリーナをユーラス兄上が狙っているのであれば、全力で叩き潰さずを得ない。


「いや!べ、別に私はあの娘を狙ってなどいないぞ」


「それなら良かったです。それではごきげんよう」

 

 僕は二人に頭を下げ、マリーナ探しへと戻った。

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