第12話

「ただいま、戻りました。父上」

 

 執務室で一人、淡々と書類を捌いていた父上へと僕は話しかける。


「よく帰ってきたな。アークよ」

 

 僕の言葉に対し、父上は視線を書類の方へと向けたまま僕に向かって言葉を告げる。


「……あれはなんだ?アーク」


「何がですか?」


「銀行の話だ。なぜあんな馬鹿な真似をした?あれに何の意味がある。金の無駄だ」


「あら?父上もわかっていなかったのですか?」

 

 僕は父上の言葉に対してほんの少しばかり驚きを覚える……父上はひどく優秀で、未来がどうなっていくかもある程度理解している人だと思っていたのだが……。


「何がだ……?」


「銀行の有用性が、ですよ」


「……有用性はわかっている……間違いなく有能だろう。あれはこの国どころか世界を統べる。あのぎんこうとやらを世界に敷設し、ありとあらゆる金を集め、ありとあらゆる事業に融資し、莫大な利権を手にする。世界の統べての事業を傘下に収めることすら不可能じゃないかもしれない……だが、あまりにもリスクが大きすぎる。やめるべきだ」


「ラインハルト公爵家は力を貪る怪物であると教えてくださったのは父上では?恐れるのですか?我らが」


「……正直に言おう。私は怖い。恐れている」

 

 今までずっと顔を書類へと向けていた父上が顔を上げ、僕の方を見てくる。


「あまりも大きすぎる話に……恐怖しているのだ。それゆえにこれ以上お前を自由にさせておかん。銀行は今ある規模で固定。それ以上の拡大は容認しない」


「わかりました」

 

 僕は父上の言葉にあっさりと頷く。

 どうせ元より僕は第二、第三の銀行……僕がやっているようなことをやっていることを行う人間が出てくるまで動くつもりは最初からなかった。

 他の銀行が台頭してくるのはまだ先。

 そして……その頃になれば僕を縛る者は誰もいなくなっているであろう。


「……それなら良い。ふむ。アークの商業的な強さ、頭脳面は正直に言って私を超えているだろう。次は素の力、腕っぷしを上げてもらいたい。もし、君がラインハルト公爵家当主に相応しいだけの強さを手にすれば私の跡取りに、とも思っている」


 その言葉は他の兄弟、姉妹に言えば飛んで喜ぶような話だろう。

 しかし、そんな話に僕は飛びつかない。


「いえ、そんな必要はありませんよ。自分は領主なんて面倒なことはやりたくないですからね」


「……そうか。だが、力を鍛えるのはやってもらうぞ。お前に一つの命令を下す。我が国の南方へと赴き、民衆を震え上がらせる最強格の竜として語られる混沌竜を倒してもらう」


「……は?」

 

 僕は無茶ぶりでしかない父上の言葉に唖然と言葉を返した。

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