第1話
アーク・フォン・ラインハルト。
これがただの高校生がトラックで跳ねられ、異世界へと転生した僕の名前である。
名前にフォンがついているように僕は中世レベルの文明圏の一国の貴族として生を受けた。
何故ドイツ語圏の言葉と同じなのか……という疑問はあれど、話し言葉も書き言葉もお金の単位もすべて日本基準だったことからまぁ、そういうことかと飲み込んだ。
「ふわぁ……」
魔法ありの世界……なんというかナーロッパと表現するのが一番正しいような世界へと転生した僕は大きなあくびを浮かべ、ぽかぱかのお日様の下、お昼寝と勤しんでいた。
僕の年齢は5歳。
なんか大きなことをするような年齢ではない。
12歳になったら学園に行かなくてはいけないが、生憎と僕はまだ5歳……あと七年もある。
「アーク様ぁー!」
「んにゃ?」
僕がゆるく、ダラけていたところに一人の女の子の声が響いてくる。
「んぅ……何?」
草原へと倒していた己の体を起こし、声がしてきた方向へと視線を向ける。
そこにいるのは肩まで伸びた金髪を揺らしながらこちらに蒼い瞳を向けてこちらへと近づいてい来る女の子……僕より二歳年上のマリーナである。
ラインハルト公爵家の三男坊である僕の婚約者である伯爵令嬢だ。
婚約者……前世で彼女いない歴=年齢だった僕に舞い降りた貴族特権による
天使。
陰キャオタクだった僕に婚約者が出来たのだ。これ以上幸せなことはないだろう。……今はまだエロさのないロリだが、将来が楽しみだ。
「アーク様のお父様が呼んでいるのでありますよ!」
彼女のありがたさに感謝していたところに告げられる嫌な単語。
「……父上が?」
僕はマリーナの言葉に思わず眉をひそめる。
「……そんな露骨に嫌な表情をしてはいけませんよ?」
「父上、苦手なんだよ……僕。でも、本人の前ではちゃんと隠しているから安心してよ。はぁー。父上ね。一体何の用なんだろ」
「すみません……用件の内容までは聞けていないです」
「行ってみなきゃわからないよね」
「そうですね」
「んじゃ、行ってくるね」
「はい。私はここで待っていますね!」
マリーナは笑顔でさっきまで僕が寝ころんでいた場所に寝っ転がり、気持ちよさそうに瞳を瞑る。
「……すぐに戻ってくるから」
僕はだらけているマリーナに羨むような視線を送り……嫌々僕が昼寝していた丘の隣にそびえ立つ豪華な屋敷へと向かう。
あぁ、行きたくない。
絶対に面倒ごとだ。この世界で5年生きてきてわかったことだ。間違いない。
まぁ、でも……学園に行くまでには諸々の問題を片付けたいと思っているし、情報を得るために会話しに行こうか。
あぁ、面倒で嫌だなぁ。
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